『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は「芸術とは何か?」を問う 実写化を成功させた“足し算”

映画『岸辺露伴』が問う芸術とは何か

 原作漫画では、若き日の露伴が経験した奈々瀬との悲恋の過去が描かれた後、露伴がルーヴル美術館に向かい、Z-13倉庫で黒い絵を見たことで、露伴と同行した美術館職員や消防員が次々と死んでいく姿が描かれる。フルカラーで描かれる残酷な殺害場面と、押し寄せる亡者のビジュアルこそがコミックスの目玉であり、怪異現象を描いた後、黒い絵が生まれた経緯が簡単に語られたのち、物語は幕を閉じる。

 ページ数が123ページと少ないこともあってか、黒い絵の怪異現象をビジュアルで見せることに漫画は特化しており、荒木のカラー作画がもっとも生きる構成となっている。

 対して映画版では、露伴が立ち寄った骨董屋が、盗まれた美術品を売る「故買屋」だったことがきっかけで、黒い絵のことを露伴が思い出すという導入部から始まり、故買組織と露伴が衝突するという物語が奈々瀬(木村文乃)と黒い絵にまつわる物語と同時進行で進んでいく。

 そして漫画版ではさらっと描かれた、黒い絵の作者・山村仁左右衛門と実は露伴の先祖だった奈々瀬の過去が最後に描かれるのだが、山村を演じるのが露伴役の高橋一生であることによって、彼が闇落ちした「もう一人の露伴」であることを暗示する構成となっている。

 つまり、映画版では「芸術とは何か?」というテーマが、補強されているのだ。「芸術」や「創作」は露伴が漫画家であるため、ドラマでも常に内包されていたテーマだったが、多くの読者にフィクションを届ける漫画家の露伴とは真逆の存在と言える、山村と黒い絵が対比されることで、より一層強まったと言えるだろう。

 観るものの後悔と罪を刺激して命を奪う黒い絵は邪悪な存在だが、美術品という意味では本物かもしれない。しかし、人を不幸にする本物など「この世に存在する意味はあるのだろうか?」と本作を観て考えさせられた。

■公開情報
『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』
全国公開中
出演:高橋一生、飯豊まりえ、長尾謙杜、安藤政信、美波、木村文乃
原作:荒木飛呂彦『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(集英社 ウルトラジャンプ愛蔵版コミックス 刊)
監督:渡辺一貴
脚本:小林靖子
音楽:菊地成孔/新音楽制作工房
人物デザイン監修・衣装デザイン:柘植伊佐夫
配給:アスミック・エース
制作プロダクション:アスミック・エース、NHKエンタープライズ、P.I.C.S.
製作:『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』 製作委員会
©2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 ©LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
公式サイト:kishiberohan-movie.asmik-ace.co.jp

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