子安武人、異色のエイリアンをどう演じた? 『レジデント・エイリアン』の魅力を語る

子安武人が語る吹替版ならではの醍醐味

 全米でも話題を呼んだドラマ『レジデント・エイリアン~宇宙からの来訪者~』。「人類を抹殺しにきたエイリアンが地球に不時着し医者になりすます」。あらすじのこの一文だけを見れば、サスペンス作品と思うかもしれない。しかし、本作はサスペンス的要素以上に、笑いあり感動ありの全世代が楽しめるSFコメディ。主人公のエイリアンはひょんなことから医師ハリーに擬態し、医師として人間たちと暮らすことに。彼の存在が街の人間たちの人生も変えていく……というわけでもないのが本作の面白いところ。そんな本作の魅力をさらに引き出しているのが、日本語吹替版を担当するキャストたち。「エイリアン/ハリー」という特殊な役柄を演じた子安武人に、本作の魅力、海外作品の吹き替えならではの魅力などじっくりと話を聞いた。

子安武人が使い分けた3つの声

『レジデント・エイリアン ~宇宙からの訪問者~』©2020 Universal Content Productions LLC. All rights reserved.

――子安さんが「ハリー/エイリアン」役の声を担当しているドラマ『レジデント・エイリアン~宇宙からの来訪者~』の吹替版が好評です。

子安武人(以下、子安):ありがとうございます。おかげさまで。「すごく面白いドラマが始まった!」って喜んで観てくださっている方が結構多いというか、「吹き替えで観ても十分楽しい」と言ってくださる人たちも結構な数いらっしゃるようなので。それは僕たち吹替版の役者としては、すごく嬉しいことですよね。

――少々失礼な言い方かもしれませんが、よくわからないまま吹替版を観始めたら、意外と面白かったという……。

子安:(笑)。でも、そういうのが、いちばんいいですよね。特に何も期待しないで観てみたら、すごく面白かったと。それはある意味、最高の誉め言葉なのかもしれない。というか、そもそもこのドラマって、そこまで馴染みのあるものではないじゃないですか。有名なドラマの続きものであるとか、そういうものではないから。なので、どういうドラマかっていうのも、最初はよくわからないわけで。

――原作が有名だったり、誰もが知っているスター俳優が出演しているわけでもなく。

子安:そうそう。だから、割とフラットな感じで観てみたら、「あ、意外と面白い」っていう。それは、言わば「本音」であって。そういうのが、いちばん認められた感じがして、率直に嬉しいですよね。

――とはいえ、子安さん自身、最初にこの話がきたときは、少し戸惑われたんじゃないですか?

子安:そうですね(笑)。最初に今回のお話をいただいたときは、「サスペンスヒューマンコメディSF」みたいな感じだったんです。サスペンスだけどヒューマンで、なおかつコメディでSFでもあるという。で、ずいぶん盛りだくさんだなって思いながら、第1話「ドクター殺人事件」の吹き替えに臨んで、「なるほど、確かにサスペンスでヒューマンだ。このあとも、こんな感じで進んでいくのかな?」と思っていたら、第2話では、サスペンスの部分が、早くもどこかに行ってしまって……まあ、ほぼコメディですよね(笑)。

――(笑)。「殺人事件」は、特に解決されないまま、次の話に進んでいくという。

子安:そうなんですよ。最初にこの設定を聞いたときは、医者に化けたエイリアンが、殺人事件を解決していくような話なのかなって思ったんですけど、そういう話ではまったくない(笑)。そうやって、こっちの予想を裏切っていく感じが面白いというか、毎回どういう話になっていくのかわからない「作り」の巧さみたいなものは、すごく感じますよね。

――確かに。導入としては、地球人を抹殺するため不時着した宇宙人の話だったのに、そっちの話は、なかなか進まない。

子安:このドラマの舞台って、コロラド州の小さな田舎町じゃないですか。だから、国家を左右するような大した人物は、出てこないんですよね。みんな、それほど立派な人間ではないという(笑)。そんなところに、人間に擬態したエイリアンがひとり混じっているんだけど、彼もまた、そんなに立派なエイリアンではないから、町の人たちと一緒にいても、そんなに違和感がないという。その面白さみたいなものはありますよね。

――全体的にオフビートな感じがあるというか。ただ、そういったドラマ全体のトーンを決定づけるという意味でも、子安さんの「声」の芝居は、かなり重要だったと思います。やはり事前に、いろいろ試行錯誤されたりしたのでしょうか?

子安:僕の中では、一応3つの分類があって。ひとつは、ナレーションをやっているハリーの声、2つ目は、ハリーに擬態しているときのエイリアンの声、そして3つ目が、本来の姿に戻ったときのエイリアンの声。で、ナレーションのときは、比較的オーソドックスな感じというか、役を作ってというよりも、客観的にしゃべっている感じでやっていて。で、見た目が人間からエイリアンになると、急にしゃべり方が変わるみたいな感じにしているんですよね。というのも、見た目がエイリアンのときが、彼にとってはいちばん居心地が良いというか、素に戻っていちばんしゃべりやすいのは、そのときなんだろうなって思って。で、そのエイリアンの造形をよく見ていただくとわかるんですけど、実は、鼻がないんですよ。

『レジデント・エイリアン ~宇宙からの訪問者~』©2020 Universal Content Productions LLC. All rights reserved.

――言われてみれば……。

子安:だから最初、エイリアンのときは「どうするのかな?」「ちょっと声を加工したりするのかな?」と思って、吹き替え版の演出をやっている簑浦(良平)さんに聞いたんですけど、そしたら「このエイリアンは鼻がないので、子安さん、ちょっと鼻の穴をふさいでやってみていただけますか?」って言われて。だから、オリジナル版がどうやっているのかは知らないですけど、日本語の吹き替えは、僕が鼻の穴をふさぎながら、モゴモゴしゃべっているんですよね(笑)。

――それは気がつかなかったです(笑)。

子安:ですよね(笑)。試しにやってみたら、簑浦さんが、「いいね。それでいこう」って言うので、一応見た目がエイリアンのときは、そういう感じでやっていて。でも、これが意外と大変なんですよ。何が大変って、鼻で息が吸えないから。

――なるほど。じゃあ、長台詞のときは……。

子安:めちゃめちゃ大変なんですよ。口でしゃべって、口で息を吸わなきゃいけないから。「これは、どこで息を吸ったらいいんだろう?」って思いながら、頑張ってやっています(笑)。

――(笑)。「ハリー/エイリアン」は、人間に擬態しているときも、「人間の感情がわからない」など、なかなかの難役だったんじゃないですか?

子安:そうですね。ただ、ハリーを実際に演じられているアラン・テュディックさんのお芝居が、本当に面白いので。僕は、そのお芝居についていこうというか、それをそのまま吹き替えることが、いちばん面白くなるんじゃないかなって思って。だから、無理やりこっちで面白くしようとか、そういうことはあまり考えてないです。毎回、テュディックさんが、ホントにいろんなことをやってくるので(笑)。

――(笑)。

子安:すごい達者なんですよね。ホントに細かいところまで、面白い芝居をしているというか。なので、それをちゃんと拾っていくだけで、十分面白いと思うんですよね。

――吹き替えの芝居をする際は、そうやってオリジナルの役者の芝居や声を参考にすることが多いのですか?

子安:そのあたりは作品によりますけど。ただ、その一方で、日本語の吹き替えならではの面白さがあってもいいんじゃないかなっていうふうには思っていて。それは、演出の簑浦さんも言っていることで。「もうちょっと芝居を大きくしてもらえますか?」とか「もう少しあざとい感じで」とか、そういう指示が入ることもあるので、オリジナルよりも多少オーバーにやっているところもあるんですよね。オリジナルの芝居を踏まえてはいるけど、それプラス、吹き替えならではの面白さみたいなものがあってもいいんじゃないかって。

――実際、子安さんの芝居の振り切り方も、だいぶすごいことになっているような。

子安:いやいや(笑)。僕の芝居が行き過ぎた場合は、演出の簑浦さんが、「それはやり過ぎだよ」って言ってくれたり、場合によっては「もっとやってよ」とか、僕の芝居を俯瞰でちゃんと見てくださっているので、そのへんのことは何も心配をすることなく、僕が思ったようにやって、それで指示をあおぐというか。だから、僕の中で、ストッパーみたいなものは全然かけてないですし、やりたくなったらアドリブもやってしまうという。

――その最終的な判断は、演出サイドがやってくれるという信頼があるわけですね。

子安:そうですね。でも、そうやって判断してもらうためには、まずはこっちが提示しなければならないとは思っているので。だから、そういうものは、これからもどんどん出していこうかなって思っています!

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