『AIR/エア』はアメリカ版『半沢直樹』? ベン・アフレック×マット・デイモンによる応援歌

『AIR/エア』はアメリカ版『半沢直樹』?

 こういったしゃべくり漫才的な面白さで引っ張りつつ、一方で本作は、ある種の青春映画的な爽やかさもある。いろいろあったすえに会社に泊まって仕事をするシーンなんて、完全に文化祭の空気だ。いよいよジョーダンへのプレゼンが決まったあとの作戦会議の風景や、プレゼンの最中の空気感の変化(ギャグを飛ばして思い切りスベった同僚をフォローするところとか)は、会社勤めをしたことがある人なら「わかる!」の一言だろう。登場するナイキの社員は全員が中年男性だが、目標に向かっていつしか一丸となっていく姿には、たしかに青春映画的な魅力があった。ジョージアのCMより働きたくなること必至だ。

 さらに、本作はマイケル・ジョーダンという若い才能を取り巻く大人たちの信念が交錯する話でもあり、それがサスペンスにも繋がっている。我々がエアジョーダンという大ヒット製品を知っていて、つまり映画の結末が分かっているはずなのに、それでも「本当に世に出るのか?」とヒヤヒヤする場面が何度もあるのだ。これはマイケル・ジョーダンの母にして、非常に聡明な人物デロリス・ジョーダンがいるおかげだろう。演じるのはヴィオラ・デイヴィス。『スーサイド・スクワッド』(2016年)以来、鬼の司令官アマンダ・ウォラーを演じ続けている実力派だ。本作の肝は「ソニーがデロリスを説得できるか?」なのだが、このデロリスが圧倒的なキレ者なので、観ていて勝てる気がしないのである。優しさを感じさせつつ、交渉面では一歩も引かない。ソニーと彼女が初めて対峙するシーンは、穏やかな昼間であるにもかかわらず、まるで西部劇の決闘か、功夫映画の手合わせのようだ。それでいて2人の交渉という名の勝負が決着し、爽やかに終わるのも素晴らしい。ちなみに本作の監督は、助演もしているベン・アフレック。『ザ・タウン』(2010年)や『アルゴ』(2012年)に続いて、相変わらずイイ仕事をしている。

 本作は、名もなき人々の「仕事」が世界を変える物語であり、華やかな成功の裏側にある、泥臭くて綱渡りな奮闘劇の素晴らしさを描いた映画だ。「華麗で人気をもつアディダスとコンバースは鯛……お前に華麗なんて言葉が似合うと思うか、ナイキ。お前は鰈だ。泥にまみれろよ」と言わんばかりに、必死にもがきながらも結果へ向かって突き進む主人公たちの姿は、すべての働く人への応援歌になることだろう。

■公開情報
『AIR/エア』
全国公開中
監督:ベン・アフレック
脚本:アレックス・コンベリー
製作:ピーター・グーバー、ジェイソン・マイケル・バーマン、デビッド・エリソン、ジェフ・ロビノフ、マディソン・エインリー、マット・デイモン、ベン・アフレック
出演:マット・デイモン、ベン・アフレック、ジェイソン・ベイトマン、クリス・メッシーナ、マーロン・ウェイアンズ、クリス・タッカー、ヴィオラ・デイヴィス
配給:ワーナー・ブラザース映画
©AMAZON CONTENT SERVICES LLC
公式サイト:https://warnerbros.co.jp/movie/air

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