朝ドラの核心“見えんでもおる”が貫かれていた『らんまん』 脚本・長田育恵の魅力

『らんまん』脚本・長田育恵の魅力

 ところで、朝ドラで冒頭から「見えんでもおる」を強く刻みつけ、その後も核心として貫いていた作品といえば、『らんまん』の他に『ゲゲゲの女房』が記憶に残る(同作では「見えんけどおる」)。このドラマは茂(向井理)のモデルとなった水木しげるのライフワークである妖怪や神話の世界を、初回から最終回までずっと大事にしていた。そして、『ゲゲゲの女房』でチーフ演出を務めた渡邊良雄が、『らんまん』でも同役を務める。今度はどんな「見えんでもおる」を見せてくれるのだろうか。

 「見えんでもおる」は、「人の思い」とも解釈できる。本作の第1週では、万太郎の原点となる「思い」が鮮烈に感じられた。また、万太郎の周りの人々の、それぞれの立場による「思い」も、色とりどりに描かれていた。子どもたちの成長を見届けられずに早逝したヒサの、断腸の思い。豪商の家を女でひとつで守る祖母・タキ(松坂慶子)の厳しさと、万太郎への深い愛情。しっかり者の姉・綾(太田結乃)が叫ぶ「しょうがないろう!」にこめられた、世の理不尽に対する悔しさ。まだ年端もいかぬ竹雄(井上涼太)が担わされた「万太郎のお目付け役」という重責へのプレッシャー。それぞれの「思い」が、最小限に抑えられた台詞の中から伝わってきた。

 生きとし生けるものを包む、天地万物のありさま。ひとりの人間の経験では推し量ることのできない、「見えんでもおる」もの。そうした形而上学的なものへの畏敬の念が、このドラマには息づいているのではないか。そんな期待を、第1週を観て持つことができた。ヒサと龍馬の「命のバトン」を受け取った万太郎の、生涯を捧げることになる植物への愛、自然界への崇敬が、この先どのように描かれていくのだろうか。楽しみに見守りたい。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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