朝ドラ『らんまん』で序盤の重要パートを牽引 広末涼子の笑顔が物語るもの

『らんまん』広末涼子の笑顔が物語るもの

 『舞いあがれ!』(NHK総合)の感動的なラストからの追い風を受け、2023年度前期の朝ドラ作品として放送が始まった『らんまん』(NHK総合)。現在29歳にして人生のほとんどの時間を俳優として過ごしてきた神木隆之介が主演を務める本作。初週は、のちに植物学者となる主人公・槙野万太郎が幼少期のパートだ。そんな彼の母・ヒサを演じているのが広末涼子。作品の入口であり、物語の序盤も序盤という重要なパートを彼女が牽引しているところである。

 広末が演じるヒサは、造り酒屋「峰屋」を展開する槙野家に嫁いできた女性。夫を早くに亡くし、自身も体が弱く寝込みがちだが、万太郎や娘の綾(太田結乃)の前では太陽のような存在だ。その笑顔は明るくも儚げで、物語はまだ始まったばかりだというのに、どうにも少し物悲しい気持ちにさせられる。しかしその一方で、同じく病弱ながらも天真爛漫な性格の主人公・万太郎のキャラクターを際立たせる役割も担っている。母と子の幸福な時間は少しでも長く見ていたいものだが、果たしてどうなるのか……。

 本作の公式ガイド『連続テレビ小説 らんまん Part1』(NHK出版)にて広末は、「ヒサは、長男の万太郎が病弱なことに負い目を感じながらも、2人の子どもの前では笑顔を絶やさない芯の強い女性です。自由な気質の万太郎と、しっかり者の長女・綾を温かく包み込むような雰囲気でいられたらと思っています」と、ヒサのキャラクターや役どころを分析し、自身の演じる姿勢を明かしている。放送が始まってからこのたったの数話で、私たち視聴者はヒサの置かれている状況を知った。それは広末が語るヒサ像そのものだろう。作品にはすでに悲しみの気配が満ちている。それは広末が打ち出しているものだ。そして同時にこの作品は、温かな明るさにも満ちている。それもまた、広末が打ち出しているものだ。つねに潤みがちな瞳に、苦しげな表情。いまにも途切れそうなセリフ回しに、弱々しい声。だがこれらは、まだ幼い万太郎(森優理斗)たちを前にすると、ぐっと力が入ったものに。この変化のさじ加減を誤ると、親子のかけ合いは途端に白々しいものとなるだろう。

 しかし実際は、白々しいものになったとしても仕方がないはずなのだ。何せ繰り返すように、ドラマは始まったばかりである。視聴者のほとんどが本作の世界観に対してまだ手探りの状態でいるはず。いま描いているのは万太郎の生い立ちの最初の部分で、今後の彼のキャラクターが定まっていくうえで重要なパートだ。万太郎の原点は、『らんまん』の原点でもあるのだから。それを考えると、本作で広末が担っているものはあまりにも大きく、そして重い。それを芝居がかった白々しいものとせず、いまだ『舞いあがれ!』の余韻の中にいる視聴者を包み込むように作品世界に誘うことができるのは、やはり彼女が積み上げてきたキャリアの賜物なのだろう。朝ドラ初出演とはいえ、さすがである。

 限られたシーンやセリフで作品の世界観を提示する役どころというと、『舞いあがれ!』で同じく主人公の母親を演じた永作博美がそうだった。ヒロイン・舞(福原遥)の父親を演じた高橋克典とともに、人と人とが支え合うことの大切さを描いた作品テーマの核の部分であり続けた。広末は先のガイドでの発言を「万太郎の心にいつまでも残り続けるような母親でありたいと思います」と結んでいる。さて、『らんまん』ではこれからどのような物語が展開していくのだろうか。それは“広末涼子=槙野ヒサ”が万太郎たちに向けるあの笑顔がすでに物語っているのだろう。いまはただ、広末の妙演をこの目に焼き付けておくばかりである。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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