『わたしの幸せな結婚』のヒットで次を探す動きも? “なろう”発の恋愛小説が続々映像化 

 小説投稿サイトから登場した“なろう系”と呼ばれる作品は、異世界転生ものばかりと思われがちだが、そんな思い込みを変えてくれる映像化作品が続々と登場している。大ヒット中の映画『わたしの幸せな結婚』は、顎木あくみが「小説家になろう」で連載して富士見L文庫から書籍化され、コミカライズを経て実写化されたもの。ほかにも転生の要素を持たず恋愛がメインの映像化作品がいくつも人気となっている。(以下、『わたしの幸せな結婚』のネタバレあり)

『わたしの幸せな結婚』

 窓辺に置かれた文机に向かっている男性に、着物姿の女性が婚約者として挨拶する。返事をせず振り向きもしない男性から恐ろしげな雰囲気が漂う。映画『わたしの幸せな結婚』の冒頭で示された、冷酷という噂の久堂清霞(目黒蓮)と、生家で継母や異母妹によって邪魔者扱いされ、使用人のように扱われてきた斎森美世(今田美桜)との初対面シーン。美世は追い出されたくないとすがるような表情で顔を下げ続ける。緊張感が映画を観ている人にも伝わってハラハラさせる。

 やがて顔を見せた清霞の表情はやはり冷たげで、美世をその場で追い出しはしなかったものの、翌朝に早くから支度して出した朝食に毒が盛られているのではないかと疑い、食べずに家を出てしまう。やはり清霞は無慈悲な人間なのか。美世に居場所はないのか。そう思っていたら、軍人としてやって来た仕事場で清霞は仲間たちと談笑しつつ、朝の美世への仕打ちを悔いる心情豊かなところを見せてくれる。

 久堂家の名声や権力におもねるような者たちには冷淡だが、信じる者たちには好意を向ける清霞の深い人間味が感じられる。その後の展開で美世の過去を知り、純真さを知って大切に扱うようになる清霞に、この人なら信じられると思うようになる美世の心の動きに引っ張られ、映画の中に入っていける。

 原作の小説では、文章によって綴られるそうした心情を、役者たちの演技と演出によってしっかりと捉えているところに、映画『わたしの幸せな結婚』が原作ファンも演じる役者たちのファンも映画館へと引きつけている理由がありそうだ。主役として、冷淡に見えて繊細な清霞を演じきった目黒蓮はもちろん、不幸な境遇に耐え、捨てられる恐怖に怯え、そして向けられた愛情に戸惑い、やがて喜びへと向かう美世の表情を見せてくれた今田美桜もしっかりと期待に応えていた。

 一見すると2人は、恐怖で縛り、少しの優しさで依存させるような関係に見えて、美世を自立した女性像からはほど遠いと指摘する声もありそうだが、小説でも映画でもやがて明らかになるように、美世には屋敷を一瞬で燃え上がらせる異能を振るう清霞すら凌駕する異能が備わっていることが分かり、立場に違いはなくなる。それでもお互いを信じ続ける関係に触れることで、人間にとっての本当の幸せとは何かを知ることができる。そんな作品だ。

 エンディングの後に登場した、マスク姿の謎の男の言葉が続編の存在を期待させ、その正体や演じる役者は誰だといった関心を誘う。仮に続編があったとしたら、原作には登場済みの清霞の親族がどう描かれるのかといった興味が浮かぶ。幸せを得て、生半可な虐めには屈しなくなった美世の生き生きとした姿と、帝都をふたたび震撼させる事態に臨む清霞の活躍が楽しみだ。その前に7月から放送が決定している、清霞を石川界人、美世を上田麗奈が演じるアニメ版も楽しみたい。

『虫かぶり姫』

【本PV】TVアニメ『虫かぶり姫』

 緊張した関係から始まる恋愛ストーリーと言えば、2022年10月から12月にかけてTVアニメが放送された『虫かぶり姫』も当てはまる。由唯が「小説家になろう」に連載した作品で、一迅社のアイリスNEOで文庫化されコミカライズもされている。主人公で侯爵令嬢のエリアーナ・ベルンシュタインは、サウズリンド王国の第一位継承者・クリストファー・セルカーク・アッシェラルドから、好きな本を読む時間を与えるから婚約してほしいと言われて応じる。

 名前ばかりの婚約者だと自分の立場を理解しつつ、本を読みながら宮廷の人たちと交流を深めていたエリアーナの前にアイリーン・パルカスという少女が現れ、クリストファーと仲むつまじい関係を見せるようになったことで、エリアーナの気持ちが揺らぎ始める。もしかして嫉妬心? そんな感情に戸惑うエリアーナを襲う危機。そして……。異世界転生によって得た強い異能ではなく、本好きという才能がもたらしたエリアーナの魅力が発揮されて、新しい道が開ける展開に嬉しさを覚える。

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