『地獄楽』アニメ化のポイントは? 牧田佳織監督が大事にした「原作の魅力を最大限に出す」
有象無象の死罪人たちが打ち首執行人とペアを組み、魑魅魍魎が跋扈(ばっこ)する島に“不老不死の仙薬”を取りに行くーー。エロティックでグロテスクな世界観ながら美麗なビジュアルで大人気を博している漫画『地獄楽』(集英社)が、MAPPAによりアニメ化された。
『週刊少年ジャンプ』作品に共通する「友情・努力・勝利」な展開はもちろんのこと、白熱するバトル描写も魅力な本作。さまざまな感情を忍ばせながら強敵と戦う様子は見ていて胸に迫るものがあるが、これらは一体どのようにアニメ化されたのだろうか。監督を務めた牧田佳織に、メインキャラクターの画眉丸と佐切の描写へのこだわりから、アクションシーンにおける工夫や監督目線での魅力について語ってもらった。
「(バトルシーンは)感情も乗ったアクションになるように」
ーー『地獄楽』がアニメ化されるにあたり、オファーを受けた際はどのように感じましたか?
牧田佳織(以下、牧田):私はMAPPAの社員なので、機会をいただけて素直にありがたいという気持ちが一番大きかったです。しかも『少年ジャンプ+』(集英社)で人気の作品なので、任せてもらえることが嬉しかったです。
ーーオファーをもらってから原作を読まれたということですが、読んでみてどういう作品だと感じましたか?
牧田:まず群像劇っぽい作品だなと思いました。読んだ人それぞれが推せるキャラクターがいる中で、その中心には画眉丸と佐切がいる。そして画眉丸の「妻に会いたい」という強い思いを物語の主軸として、群像劇がそこに収束していく感じがあり、すんなり入り込めました。あとはビジュアルも私が好きな方向性なので、どうやって映像にしていこうか、読んでいる段階から想像ができたので、とても面白かったです。
ーービジュアルの“好きな方向性”というと?
牧田:全体的なビジュアルもですが、人間がお花になるところとか、エロティックな部分もありつつ、グロテスクな部分もある。私も普段からそういった作品が好きでよく観るので、そういうところが描きがいがありそうだと感じました。
ーーそうなると、アニメ化においてこだわったのはやはりビジュアル面ですか?
牧田:そうですね。作品を読んで、読者の方たちも魅力に感じているのはやはりビジュアルの部分だろうなと思っていたので。あとは、それぞれのキャラクターにかなり人間くさい部分があり、全員にバックボーンがしっかりとある。それを取りこぼさずに描ければいいなと思っていました。
ーー原作はバトルも大きな魅力ですが、コマ割りの都合で途中のアクションが省略されていることもあります。アニメ化する際にアクションの処理はどのように意識しましたか?
牧田:賀来(ゆうじ)先生が描かれたコマの中でキャラクターが動いてる軌跡を読み解いて、カッコいい形にすることはもちろん意識していました。ただ、そうしたバトルの中にも“忍としての画眉丸”、“侍としての佐切”というようなところがある。その点においても地に足がついた感じにしたいなと思い、原作で省略されたアクションを描く際にも、感情を乗せられるように意識しました。それはカットの積み方とかもあると思うんですけど、アクションに終始するのではなく、力の込めどころだったり、ちょっと顔を見せたりする形で感情も乗ったアクションになるように作りました。
ーー展開の速いバトルですし、そうした工夫を入れるのも大変そうですね。
牧田:結構ファンタジーな動きや人外な動きをするので、アニメにするのは大変でした。でも、だからこそアニメでやる意味があるとも思います。普通の殺陣だったら実写でやってもいいのかなと思うのですが、そこにアニメ的な面白さみたいなものが乗せられればと思っています。
ーーアクションを描く際に参考にされた作品はありますか?
牧田:『THE 八犬伝』はキャラクターがヌルヌル動いてるけど、重みと剣戟を見せられているんですよね。キャラクターデザインの久木(晃嗣)さんとは「こういう方向にできればいいね」と話してました。
ーーアニメーションの部分でいうと、本作は主人公たちに加えてクリーチャーも多く登場します。彼らの動きはより人外で、こちらも漫画から想像するしかなかったと思うのですが、どのように考えて制作されたのですか?
牧田:まず、『地獄楽』には一般的に言うところのモブキャラクターがあまり登場しないんです。そんななかで竈神や門神を倒していくので、「弱く見えてはいけない」という点には特に気を付けています。なので巨大感だったり、その怖さや囲まれたときの圧迫感のインパクトを意識しました。とはいえビジュアル的には出オチみたいなところもあるので、原作通りのデザインのものも出しつつ、竈神や門神は色にこだわって奇妙さを追及していています。
画眉丸と佐切が愛される理由
ーーメインキャラクターの画眉丸は、どのようなキャラクターだと考えていますか?
牧田:画眉丸は妻のために頑張るのですが、少年漫画のキャラクターとしては珍しいですよね。あと画眉丸って意外と素直で、結構周りの言うことをちゃんと聞くし、ぶれない部分もある。あと適応力もあって、ちゃんと人間的だなというところが、徐々に出てきます。もともと、素の部分はそっちの子なんだろうなと思うので、その辺りが魅力的なキャラクターだと思います。
ーー“妻帯者”という特徴もありますが、中身の部分でいえば少年漫画の主人公たる存在ですよね。
牧田:そうですね。なんか、誰もが好きになるキャラクターだと思います。画眉丸を嫌いな人っていないんじゃないかな。見ていて気持ちの良いキャラクターというか、行動に“妻”という筋が1本通っていて惑わされないから、魅力的に見えているのだと思います。
ーーそんな画眉丸を描く際に、何を大事にしていますか?
牧田:やっぱりアニメで描かなきゃいけないのは“妻のために帰る”というところなので、基本的には妻とセットで考えています。コンテを切るときも画眉丸が出てきたら妻の影がちらつくようになってるといいなと思って描いています。
ーー佐切についてはどうですか?
牧田:佐切は不器用な子だと思っています。役目に忠実に、そして真面目にやろうとしてるんですけど、でも結局情に流されちゃって。たぶん、不器用だけどめちゃめちゃ優しい人なんでしょうね。画眉丸の妻とはまた別ベクトルなんですけど、全てを包み込むような人という感じで、だからこそ画眉丸も佐切のことを信頼していくのだと思います。そういう揺らぎがあるところが魅力的なんだろうなと思います。
ーーその佐切を描く際に大事にされていることは?
牧田:佐切はやはり揺らぎの部分ですよね。あとは、凛としているんだけどしきれない、そんなかわいさも出してあげられるといいかなと思っています。割と年相応なんですよね。自分がそう見えないように頑張っているんですが、でもそこが隠しきれていないからこそ、読者は佐切のことを素直に見ることができる。そのお茶目な部分も入れ込みつつ、あとはちゃんと悩ませてあげたいなと思って描いています。
ーー実際にそれぞれの声優さんの演技を聴いていても、そうしたキャラクター性が伝わってくると感じていました。演技のディレクションはどれぐらいされましたか?
牧田:自分のやりたい方向性などは音響監督に都度お伝えしながらやっています。でも、キャストの皆さんは原作をお好きな方が多くて。原作を読み込んで役を作ってくださっていたので、第一声を聞いたときからキャラクターのイメージそのままでした。たとえば佐切を演じられている花守ゆみりさんは、私が佐切に対して感じていることと同じようなことを考えながら原作を読んでいらっしゃったんだなと思いました。なので大きなギャップもなく、原作を好きな方に演じてもらえてることがすごく幸運なことだと思っています。