永作博美、『舞いあがれ!』は代表作に めぐみ役を通して示した、母・女性としての人間像
朝ドラ『舞いあがれ!』(NHK総合)は、ヒロイン・舞(福原遥)の成長を描いた作品である一方、母・めぐみ(永作博美)の成長を綴る作品でもあった。と、半年間の放送を終えようとしているいま、しみじみとそう思う。主演である若手俳優の福原をいつもそばで見守り、ともに走ってきた先輩俳優の永作博美。彼女が作品や役を通して示していたことは何だったのだろうか。
本作の公式ガイド『連続テレビ小説 舞いあがれ! Part2』(NHK出版)において永作は、「めぐみは心配ばかりしているお母ちゃん。幼いころ、自分の気持ちを言えなかった舞が、成長して自己主張するようになると、人力飛行機や、やがては旅客機のパイロットになりたいと思いがけないことを言い出します。そのたびにめぐみは戸惑い、反対します。それは舞にとって飛び越えていくべき『最初の壁』だと思うんです。壁を越えるごとに成長し、勇気を得て新しい自分に変わっていける。『舞の壁になる』と自分に言い聞かせながら演じています」と述べている。なるほど。“舞の最初の壁”というのには、非常に納得である。いつも「待った」をかけるのは彼女だった。だが、かといって彼女は娘の意見を頭ごなしに否定するのではなく、その真意がどこにあるのか、果たしてその熱意はいかほどのものなのか、視聴者の前に引き出してみせる役割を担うものだったと思う。
そんなめぐみは多くの方がご存知の通り、大変な苦労人である。夫の浩太(高橋克典)と駆け落ちをしたため、故郷の長崎・五島で暮らす母(高畑淳子)との間に埋めがたい溝が生まれ、若くして完全な疎遠状態に。小学生になった娘の舞の体の弱さに気を揉んでいたところ、二人で療養のために帰郷し、やがて舞が和解の架け橋になった。しかし、彼女のその後の人生のすべてが順風満帆だったわけではない。舞がパイロットになりたいなどと突拍子もないことを言い出すし、額に汗して夢を追う家族に対して冷笑的な息子の悠人(横山裕)はファンドマネージャーとして大成功するもの後に逮捕、夫の浩太は自身の会社を大きくしてみせるも世界的な金融危機に抗えず、心筋梗塞によって急死してしまったのだ。
本作における永作の演技には圧倒的な柔らかさがあった。発するセリフの語調はもちろんのこと、声色だって表情だってふとした仕草だって、誰かを前にしたものである以上、それらはいつも相手を安心させるような穏やかさに満ちていた。しかし私たち視聴者は、めぐみが完璧な聖母のような人物でなかったことを知っている。母との対峙の際、彼女が絞り出す言葉を支える声は震えていた。浩太の突然の死を前に、悲しみと不安で押し潰されそうな彼女の顔は歪んでいた。当然である。彼女は朝ドラのヒロインの母である以前に、どこにでもいる一人の女性なのだから。