アカデミー賞『エブエブ』の“完勝”にみる映画界の変化 試されるメジャースタジオの企画力
実際近年のアカデミー賞で、ワーナー・ブラザースの『アルゴ』が作品賞を獲った2012年以降、いわゆる大手の作品が頂点に立ったのはユニバーサル映画である『グリーンブック』の1本のみ。ついこの前まで劇場公開vs配信公開という構図が繰り広げられていた映画界ではあるが、本来問題とすべきは上映フォーマットではなく、企画力にあったのかもしれない。たしかに『西部戦線異状なし』はリメイクだし、『トップガン マーヴェリック』は単なる続編映画にはないエモーショナルな画面を実現するに至ったわけだが。
おおむねフランチャイズに依存するか、冒険のない伝記映画や製作意図がわかりづらいリメイク映画に傾いたメジャースタジオの向きは、興行的に成功したとしてもいよいよマンネリ化は避けられない。そうしたなかで、映画作品としての型、あるいはアカデミー賞の型を破った『エブエブ』。それはシンプルに言って、常に“新しいもの”、発見と驚きを求める観客の欲求に最も真摯に応えた作品といえる。勝利の女神が微笑んだことも大いに頷けるのである。
それにしても、今年の受賞者の顔ぶれを見ているだけで、オスカーらしさが清々しいほどに皆無だ。『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』のキー・ホイ・クァン(作品賞のプレゼンターでハリソン・フォードが現れた時のあの笑顔!)と『ハロウィン』のジェイミー・リー・カーティス。『ハムナプトラ』のブレンダン・フレイザーの奇跡の復活に、『ドーン・オブ・ザ・デッド』のサラ・ポーリーが自らの監督脚本作で演者時代に届かなかったオスカーを手に入れるベストモーメント。
そして極め付きはなんといってもミシェル・ヨー。20年以上前のジャンル映画のスターたちがズラリとオスカーウィナーになった第95回が“異例の年”となるのか、はたまたニューノーマルの“元年”になるのかは、まだ読めない。
■公開情報
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
全国公開中
監督:ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート
出演:ミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァン、ステファニー・スー、ジェイミー・リー・カーティス
配給:ギャガ
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