第95回アカデミー賞直前予想! 『エブエブ』強し、鍵は“アメリカ内外意識差”と“選好投票”

脚本賞

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』©2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

●マーティン・マクドナー『イニシェリン島の精霊』
★ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
スティーヴン・スピルバーグ&トニー・クシュナー『フェイブルマンズ』
トッド・フィールド『TAR/ター』
リューベン・オストルンド『逆転のトライアングル』

 前候補が監督・脚本兼任(トニー・クシュナーだけ脚本のみ)で、監督賞とも同じ顔ぶれ。ここは『エブエブ』旋風に乗ってダニエルズが取ると予想。海外票はマーティン・マクドナー、古参会員票は『フェイブルマンズ』という可能性もある。

脚色賞

『ウーマン・トーキング 私たちの選択』のサラ・ポーリー ©2022 Orion Releasing LLC. All Rights Reserved.

●エドワード・ベルガー、レスリー・パターソン、イアン・ストーケル『西部戦線異状なし』
ライアン・ジョンソン『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』
▲カズオ・イシグロ『生きる LIVING』
アーレン・クルーガー、エリック・ウォーレン・シンガー、クリストファー・マッカリー『トップガン マーヴェリック』
★サラ・ポーリー『ウーマン・トーキング 私たちの選択』

 『ウーマン・トーキング 私たちの選択』は、間違いなく2022年の重要作品なのだが、興行成績でもノミネーションでも冷遇されてしまった。だが投票期間中のインディペンデント・スピリット賞ロバート・アルトマン賞、全米脚本家組合賞脚色賞を受賞していることから、他の支部の投票者にもサラ・ポーリーの名前と功績が行き届いたと思う。俳優賞ノミネート皆無ながら善戦の『西部戦線異状なし』が、国際長編映画賞以外で取るとしたらこの部門。黒澤明の『生きる』を英国でリメイクしたカズオ・イシグロは大穴。というのは、この中で俳優賞にノミネートされている作品は『生きる LIVING』のビル・ナイのみ。

国際長編映画賞

『西部戦線異状なし』Netflixにて独占配信中

★『西部戦線異状なし』(ドイツ)
『アルゼンチン1985 ~歴史を変えた裁判~』(アルゼンチン)
『CLOSE/クロース』(ベルギー)
『EO イーオー』(ポーランド)
『The Quiet Girl(英題)』(アイルランド)

 毎年、国際長編映画賞は強い作品が決まっているが、今年は文句なしに『西部戦線異状なし』で、さらに技術部門でも追加される可能性もある。とは言っても、この部門は約90カ国から代表作が集まり、ショートリスト、ノミネートとふるいにかけられた上での厳選5作品。ここにノミネートされているだけで優秀賞と呼べるカテゴリーだ。

監督賞

『フェイブルマンズ』のスティーヴン・スピルバーグ ©Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

マーティン・マクドナー『イニシェリン島の精霊』
★ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
●スティーヴン・スピルバーグ『フェイブルマンズ』
トッド・フィールド『TAR/ター』
リューベン・オストルンド『逆転のトライアングル』

 脚本賞と全く同じ面子による監督賞。脚本賞は『エブエブ』なので、という忖度でスティーヴン・スピルバーグが受賞する可能性も大いにある。どちらにしても、この2つのカテゴリーは2作品と対になる結果となるだろう。『TAR/ター』は激推し勢と同じくらいアンチもいて、インディペンデント・スピリット賞で司会を務めたコメディアンのハサン・ミンハジが『TAR/ター』の「Elephant in the room(みんなが見て見ぬふりをしている事実)」を明かしてしまった(クリップ内5分20秒あたりから)。

OPENING MONOLOUGE - HASAN MINHAJ - 2023 FILM INDEPENDENT SPIRIT AWARDS

 賛否双方で共通しているのは「ケイト・ブランシェットはすごい」。つまり、主演女優賞以外は望み薄。

作品賞

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』©2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

『西部戦線異状なし』
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
『イニシェリン島の精霊』
『エルヴィス』
★『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
『フェイブルマンズ』
『TAR/ター』
『トップガン マーヴェリック』
『逆転のトライアングル』
『ウーマン・トーキング 私たちの選択』

 あえてここは本命だけで。というくらい、アメリカでのムードは『エブエブ』のsweep(全て取るという意味)が予想されている。本来、アカデミー賞などの賞レースで不利と言われるSF、アクション、コメディの3つ巴の異色作で、全米公開は昨年3月。今年の作品賞候補には、『エブエブ』(3月)、『トップガン マーヴェリック』(5月)、『エルヴィス』(6月)、といった上半期公開作品が入り、賞レースシーズンと言われる10月~12月公開の期待作を凌駕した。もともと、スタジオが賞レースを劇場公開宣伝の起爆剤として利用していたのが、アカデミー賞候補規定に合わせて晩秋に公開するため作品が渋滞してしまう。その結果、賞レースシーズン中に公開した作品は興行成績で苦戦するという本末転倒を引き起こしていた。そういった概況を併せて見ても、『エブエブ』のように口コミで劇場公開を盛り上げ、世界興行収入1億ドルという成功を収めた作品が受賞するのは理にかなっている。さらに、監督・脚本のダニエルズは、ユニバーサル映画と複数年の優先交渉権契約を結んでいる。今作はインディペンデント配給会社のA24の作品だが、次からは大手スタジオ作品を手掛けることになる。ハリウッドの未来を担うのは、奇想天外な作品で頭角を現したダニエルズのような才能なのだ。

参照

※ https://www.instagram.com/p/CnZ7gwdPpAf/

■公開情報
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
監督:ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート
出演:ミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァン、ステファニー・スー、ジェイミー・リー・カーティス
配給:ギャガ
©2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:https://gaga.ne.jp/eeaao/
公式Twitter:@eeaaojp
公式Instagram:@eeaaojp

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