『THE SWARM/ザ・スウォーム』には『チェルノブイリ』の影響も? 製作総指揮が語る
大型国際ドラマ『THE SWARM/ザ・スウォーム』の独占配信がHuluでスタートした。本作は、世界各国で海に関する“異変”が次々と発生するなか、様々な国の科学者たちがその原因を解明しようと奔走する深海SFサスペンス。Hulu Japanのほか、ドイツやフランスの制作会社が参画したこの一大プロジェクトで製作総指揮を務めるのは、『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011年〜2019年)や『ジョン・アダムス』(2008年)、『ROME[ローマ]』(2005年〜2007年)など、数々の名作ドラマを世に送り出し、エミー賞も多数獲得してきたフランク・ドルジャーだ。
各国から豪華キャストが集結するなか、日本からは木村拓哉が参戦し、注目を集めている本作。そんな『THE SWARM/ザ・スウォーム』の見どころや木村拓哉とのエピソード、そしてストーリーテリングのこだわりについて、ドルジャーに話を聞いた。
今を予期していたかのような原作に惹かれて
ーーなぜこの原作を映像化しようと思ったのですか?
フランク・ドルジャー(以下、ドルジャー):5年ほど前にビジネスパートナーから映像化の話を持ち込まれました。もともと2004年にドイツで発表された小説なのですが、その当時から非常に重要な意味を持ち、よく知られている作品だということは知っていました。今になって改めて読むと、20年前に書かれたと思えないぐらい、まるで今日起きていることを予期していたかのような内容に本当に驚いたんです。現在は温暖化など、自然環境に関する様々な事実をベースにしたドキュメンタリーや作品が多数作られていますが、私は、キャラクターが牽引するエモーショナルなドラマによって環境問題を掘り下げられないか、そうすればドキュメンタリーなどを見飽きてしまっていて、「環境問題についてはもう十分に知っているよ」と思っている人にも響く作品になるのではないかと思いました。
ーー原作小説はかなりボリュームがありますが、それを全8話のドラマに落とし込むにあたって、どのような基準で取捨選択をされたのでしょうか?
ドルジャー:『ゲーム・オブ・スローンズ』や『ジョン・アダムズ』、『ROME[ローマ]』の制作の経験から学んだことが1つあります。それは何があってもキャラクターに焦点を当てるということです。ストーリーは常にキャラクターからの視点で描かれなければならないと考えています。原作は科学的な説明が非常に多いのですが、それらをすべて映像化するのは難しいです。今作では登場人物たちがそれぞれの場所で異変の原因を調べていくのですが、その過程でキャラクターの強みや弱みが反映されているエピソードをつなげていき、成長に繋がっていないエピソードはカットするというアプローチをしました。そして、全体的にストーリーをシンプルにしています。本作はディザスターものとして描きたくなかったのですが、原作の後半3分の1はそういった方向に向かっていきます。映像化にあたっては物語にとって必須になる部分だけを抽出し、科学者たちがいかにこの未知なる存在と向き合っていくのかをドラマとして見せることを意識しました。原作では後半、実は人間対人間という構造になっていくのですが、ドラマではそうではなく、人間と自然界や海との関わり合いをしっかりと描くように意識しました。
ーー原作は20年近く前に発表された作品ですが、現代らしさを加えるために工夫したこと、気づいたことはありますか?
ドルジャー:まず、科学に関してはアップデートが必要でしたが、素晴らしいコンサルタントが入ってくれていたのでとても楽でした。また、原作が出た当時はヨーロッパや北米では特に科学者は男性が多かったのですが、現在では女性が増えています。多様なバックグラウンドを持つ方が科学のフィールドに入ってきているので、その多様性を表現するために、キャラクターの設定を変更しています。また、年齢を若くしているキャラクターもいます。個人的に、登場人物の年齢の幅が広く、ヒーローっぽくない人がヒーローになる物語が好きだということも背景にあります。また、コンサルタントと話した時に2023年から新しいエネルギー資源を見つけるために深海を掘ることができるライセンスの付与が始まると知りました。もちろん、私たちの生活には欠かせないバッテリーやチップを作るために必要な資源なのですが、正しいやり方を選ばなければ環境への大きなダメージに繋がってしまいます。原作では登場人物の一人であるヨハンソン博士は、油田の掘削をしている企業から欺かれていたという設定なのですが、そういった現在の状況を踏まえて、設定を変更しています。
木村拓哉に感じたプロフェッショナルな姿勢
ーー撮影現場で印象に残っていることは?
ドルジャー:ドラマの制作中、ずっと心に残っていたことがあります。今回、パンデミックの最中での撮影だったので、クランクイン前の顔合わせはZoomで行われました。終わった後にある役者さんから電話がかかってきて、「今回のスタッフとキャストの顔をZoomで見た時に、まるで現在の世界を見ているような気がして心を動かされた」と言われたんです。まさに今の世界の多様性をそのまま反映したかのようなスタッフ・キャストだったと言われてとても印象的でした。温暖化の影響というのは、世界各国誰しもが等しく晒されている脅威であり、さらに、キャストやスタッフも今現在の世界の多様性を表している。これはまさしく真の意味で国際的な物語なのだということに気づかされ、とても嬉しく思いました。
ーー木村拓哉さんとお仕事をされた感想を教えてください。
ドルジャー:今回のストーリー終盤で、科学者たちが国際委員会に訴えて北極海に船を出そうとするのですが、費用が出せないと断られてしまいます。その時に頼る相手が必要だと考えていました。その時に思い出したのが、先進国の中でも特に海と深い関わりを持つのが日本だということです。日本には約7000の島があり、陸地の約12倍の海域を持つと何かの本で読みました。金銭的な支援をして科学者たちを後押しする役割を果たすキャラクターは、海と深く関わりのある国の人物がいいなと思いました。また、リアリティーのあるキャラクターにしたかったんです。ミフネは海運業で富を築きましたが、同時に海へダメージを与えてしまったことも自覚していて、科学者たちを支援することが、自分自身が海に与えてしまったダメージを払拭する、そして世界を救うためのチャンスだと考えています。木村さんについてはハッとさせられた部分が3つあります。1つ目は年齢を重ねていて大人の成熟した権威を表現できる感性、2つ目は知性が感じられること、最後にスクリーン上の存在感でした。木村拓哉さん演じるアイト・ミフネは、原作の後半で非常に重要な役割を果たす米軍総司令官の女性ジュディス・リーを木村さんのイメージに合わせて作り変えたキャラクターです。一緒にお仕事をさせていただいて、とても素晴らしかったです。現場では撮影はとてもスピーディーに進行していき、複雑なシーンもあったのですが、見事に演じ切ってくださいました。他のキャストともとても良いバランスでしたし、演技も見ごたえのあるものとなっています。特に最後の2話では、物語を1つにまとめてくれるとても重要な役割を担っています。彼のためにミフネというキャラクターを作ることができて本当に良かったです。
ーー撮影中の木村拓哉さんとのエピソードがあれば教えてください。
ドルジャー:撮影を通じて特に感心したのは、ミフネのオフィスの撮影シーンでの出来事です。2日間かけていろいろなシーンを撮影したのですが、ビデオ通話をしているシーンや、グリーンバックで背景を変えるなど、様々なことをしなければなりませんでした。撮影現場から離れた場所に木村さんの控室を用意していたのですが、撮影が終わった後、彼が控室に行ってから5分後くらいにすぐメイクさんと衣装さんを引き連れて撮影現場に戻ってきて、「控室を用意してくれるのはとても感謝しているけど、行ったり来たりする時間がもったいないから、撮影場所にスペースを用意してくれればそこでメイク直しや着替えをするよ」と言ってくれたんです。セットの角の方に椅子を置いてカーテンをかけてスペースを作り、そこでメイク直しや着替えをしてくれたので、通常は移動も含めて30分かかるところを5分で衣装替えができるようになりました。そのおかげでいろいろなアングルで撮影ができたし、監督と共に演技を深めていくことができました。普段、大スターとお仕事をしている自分の経験からすると、作品や演技がどうこうというよりも、自分がどう扱われるかの方が大事、という方は結構いらっしゃいますが、木村さんは全くそうではありませんでした。自分がやりやすい環境にこだわるのではなくて、時間を無駄にせず、より良い作品を作りたいという思いからそういったことをおっしゃってくださり、これが本当のプロフェッショナルだなと感心しました。