『THE SWARM/ザ・スウォーム』は“海の恐怖”詰め合わせ? サメよりも凄いクジラの恐怖

“海の恐怖”詰め合わせの『ザ・スウォーム』

 『白鯨』(1956年)、『ジョーズ』(1975年)、『アビス』(1989年)、『MEG ザ・モンスター』(2018年)、『海底47m』シリーズ、『海獣の子供』(2019年)、そして『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』など、人々にとって魅惑にも危険にもなる“海洋の脅威”を題材にした映画は、これまで数多く製作されてきた。そんな題材を中心に据えて、ドラマシリーズでじっくりと描いたのが、今回紹介するHuluオリジナル『THE SWARM/ザ・スウォーム』だ。

 インターネットで、いつでもどこでも、さまざまな地域の風景や情報を、一般の人々が把握できるようになった現在。そんな時代の人間たちにとって、もはや地球上で未知の場所など、ほとんど存在しないのではと思える。しかし、地球上で人類に踏み荒らされていない場所は、まだ広く残されている。それは海洋であり、深海の世界だ。

 もちろん、海では昔から多くの人々による経済活動や研究がおこなわれてきた。だが、それでも解き明かされていない謎や、いまだ人類に知られていない秘密が、この空間にはまだまだ存在しているはず。そんな大海原への人類の期待と、同時に原初的なおそろしさを思い起こさせてくれるのが、本ドラマシリーズなのだ。

 超大作ドラマシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』を手がけたフランク・ドルジャーが製作総指揮を務めた、ヨーロッパのドラマ最大級の制作費でおくるHuluオリジナル『THE SWARM/ザ・スウォーム』。ここではその特徴的といえる部分を、他の映画作品ともに、比較しながら掘り起こしていきたい。

※本作品の一部には、津波や津波による被害を表現した箇所が存在します。鑑賞の際にはご注意ください。

 本ドラマシリーズが描くのは、人類に襲いくる、さまざまな“海洋の脅威”だ。巨大な海洋生物の攻撃や、種の異常な大量発生、海からくる伝染病の蔓延、津波による大規模な被害、深海で迫りくる強い水圧など、海の危険がエピソードごとに、これでもかと描かれていく。まさに、“海の恐怖、詰め合わせセット”のようである。

 そんなさまざまな脅威が、一つの物語のなかで表現できるのかという疑問が生まれるかもしれない。それらを描いたとしても、とりとめのない散漫な作品になるだけなのではないかと。しかし、ドイツのベストセラー小説『深海のYrr』を基にした、本ドラマの物語は、それら複数の脅威が、驚くような真相とともに、一つにつながっていくことになるのである。

 シャチやクジラが、例年とは異なる動きをしはじめるというのが、ストーリーの発端だ。カナダ観光で人気のある、船でクジラが泳いでいるのを観にいく「ホエールウォッチング」では、クジラが全く現れないことで、関係者が頭を抱えている。その後、ついにクジラたちが近海のエリアに帰ってきたと思えば、動きが不穏なのである。クジラは通常、人間を襲うことはないのだが、ウォッチング中に予想もしない大惨事が起きてしまう。

 映画『白鯨』や『白鯨との闘い』(2015年)でも、人間を襲うクジラのおそろしさが描かれたように、あの巨体と凄まじい力が、ひとたび本気で人間に向かってくると、その恐怖はサメよりもはるかに凄まじいものとなる。

 本ドラマの見せ場となるのは、このように人間を襲うようになったクジラたちの動向を探るべく、研究者がカメラを取り付けようとする、緊迫したシーンだ。頭が良いクジラに気づかれないよう接近するためには、眠っているときしかない。だから、群れが眠っているときに、ダイバーが静かに潜って近づいていくのである。

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