『THE SWARM／ザ・スウォーム』は“海の恐怖”詰め合わせ？　サメよりも凄いクジラの恐怖

　近年、野生のマッコウクジラの群れが海中で“立ち寝”をする姿が記録され、話題を呼んでいる。巨大なクジラたちが縦になって並んでいる様子は、一見ほほえましくもあるが、同時に幻想的でもあり、見ようによってはその静寂さが不気味にすら感じられる部分がある。人間に敵対心を持つ、本ドラマのクジラたちの群れに近づこうとするダイバーが感じるおそろしさや緊迫感は、なおさら強いはずだ。

　ほかにも、フレンチレストランの厨房でロブスターの体液を浴びたシェフが、病気に感染したり、“水の都”ヴェネツィアの運河が、おびただしい数のクラゲで埋め尽くされるなど、世界のあらゆる地域で、海が関係した問題が頻発するようになっていく。本ドラマは、科学者を中心に、この連動した海洋の脅威の原因を究明していくこととなる。

　このような世界規模の海の問題に挑む人々を演じるのは、各国の俳優たちだ。スウェーデンの俳優アレクサンダー・カリム（『ゼロ・ダーク・サーティ』）、フランスを中心に活躍する、ベルギー出身のセシル・ドゥ・フランス（『ヒア アフター』）、ドイツのバルバラ・スコヴァ（『ホワイト・ノイズ』）、イギリスのシャロン・ダンカン＝ブルースター（『DUNE/デューン 砂の惑星』）、そして日本からは木村拓哉が参加しているように、国際的にバラエティ豊かな顔ぶれが並ぶ。

　木村拓哉が演じるアイト・ミフネは、研究者をサポートすることになる慈善家の役。敵にまわすと恐そうだが、味方にいると心強い、物語のキーパーソンだ。『アバター：ウェイ・オブ・ウォーター』でクジラを思わせる生物が、日本のクジラ漁を思わせる描写で危機に瀕していたように、欧米諸国で海を舞台にした題材では、日本人のイメージは高くないことが多いが、ここでは、そのような印象を覆す役割を果たす、プラスの日本人像として描かれているのだ。

　研究者たちやミフネは、人間に対する海洋生物のさまざまな変化における真相に迫っていく。そして、そこには全ての海をつなぐ共通の問題があった。ジェームズ・キャメロン監督の『アビス』や、劇場アニメ『怪獣の子供』では、海洋アドベンチャーにSFの要素が加わり、海の神秘性が強められていた。まさにジュール・ヴェルヌの海洋冒険小説『海底二万里』などに代表される世界観だ。そこでは、現代の人間の価値観や文化は通用せず、自然に対する、より根源的な関係が描かれていた。

　本シリーズもまた、生命の謎に迫ることによって、人間と自然のかかわりを、あらためて考えさせる部分がある。古来から人間は、海から自然の恵みを得てきたが、海に対して何らかの貢献をしてきたといえるだろうか。むしろ、川や海洋に流した工場や各家庭の排水などが甚大な汚染を続けたり、エネルギー採掘や海洋生物の乱獲などで、自然環境を悪化させ続けている状況にある。

　もしも海洋の生物たち全てが、それを知ってしまったとしたら、人間たちのことをどのように思うだろう。そう思うと、背筋がざわざわとしてこないだろうか。劇中でセシル・ドゥ・フランス演じる研究者が考えはじめるように、海洋で起こる変化の根源には、人類と海との古来からの関係と、それに対する何らかの意味があるかもしれないのである。そのように考えれば、物語は地理的な横軸だけではなく、歴史の縦軸にも広がり、さらにダイナミックさを獲得することになるだろう。

　いままでの映画が描いてきた海洋でのスリルと、自然に対する取り組みについての、さらに冷や汗をかいてしまうようなテーマ……『THE SWARM／ザ・スウォーム』は、ドラマという枠組みだからこそ、複数の視点から組み上げられる、立体的な海の世界のなかに視聴者を引き込んでいく、これまででほとんど類を見ないドラマ作品といえるのではないだろうか。

『THE SWARM／ザ・スウォーム』の視聴はこちら

■配信情報
Huluオリジナル『THE SWARM／ザ・スウォーム』（全8話）
Huluにて、3月4日（土）独占配信スタート
製作総指揮：フランク・ドルジャー
監督：バーバラ・イーダー、ルーク・ワトソン
原作：『THE SWARM』フランク･シェッツィング著
脚本：スティーヴ・ラリー、マリッサ・レストラード
制作：インタグリオ･フィルムズ、ndFインターナショナル・プロダクション
©︎Intaglio Films GmbH / ndF International Production GmbH / Julian Wagner / Leif Haenzo
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公式サイト：https://www.hulu.jp/static/theswarm/