『ヴィンランド・サガ』は今もっとも観てほしい一作 第2期で際立つ“生きる”というテーマ

 トルフィンは、父を殺害された復讐として、血と暴力が支配するヴァイキングの世界へと足を踏み入れてしまった。シーズン1ではトルフィンを通して、ヴァイキングのカッコ良さよりも、人々への略奪や遊びによる死体損壊などの、負の側面を真正面から描き、暴力の残酷さを強調した。

 トルフィンはヴァイキングの世界で生きる中で、その暴力性に苦しんでいく。かつてアシェラッドに父を殺された復讐としてヴァイキングの一員となり、多くの戦士を手にかけ、命令されたとはいえ罪のない人々を苦しませる手伝いをした。その罪の意識は消えず、かといってヴァイキング以外の生き方も知らない。そんな力が強いだけの幼子のようなトルフィンが、生きる力と術と今後の希望を見出すのがシーズン2の内容となっている。

 シーズン2では対比関係が多く用いられている。トルフィンの相棒となるエイナルは、かつて農民として母や妹と暮らしていたが、ヴァイキングによって全てを奪われた。つまり直接的な関係はないとはいえ、トルフィンとエイナルは加害者と被害者に近い関係性ということになる。エイナルはトルフィンの加害者としての罪の意識に苛まれる苦しみを知り、トルフィンはエイナルの農業の知識によって、生きる術を知っていく。

 象徴的なのが第6話のやりとりだろう。重量鋤と呼ばれる農具を使う際には「これを作ったのは農夫に違いない。農夫の大変さを知る人でないと、こうは作れないよ」と、トルフィンが呟くシーンがある。野良仕事をしていたエイナルにしたら当たり前の知識でも、それを知らないトルフィンからしたら、驚愕する新しい知識に思える。そういったやり取りを経て、トルフィンは新しい人生を見つけていき、エイナルは生まれ変わろうとする姿を好意的に見守る。

 それはともすれば、なんとも地味な姿に見えるかもしれない。特にシーズン1のアクションを期待していたテレビアニメのみの視聴者からしたら、原作由来とはいえ、この方向転換は呆気に取られるかもしれない。しかし、これこそが『ヴィンランド・サガ』という作品の魅力であり、宇宙を舞台にしながらも人生と愛について考えた『プラネテス』から続く幸村誠の作家性の中心といえるのではないだろうか。

 籔田修平監督はアイスランド史を学ぶ中で、「この国が現在に至るまで軍事力を持たずに国家の形を保ってきたことに気付きました」と語っており、今作のスタートがアイスランドであることに大きな意義を感じている。(※)もちろん、その歴史を紐解けば簡単な思想ではなく、さまざまな勢力の支配下に入ったり、侵略された経験もあり、現在も国防をNATOに頼っている状況だ。もしかしたら、多くの登場人物が語るように剣は自分や大切な人を守るために必要なのかもしれない。

 剣をとるべきか、それを捨てるべきか。かつて行った蛮行や罪は許されるのか。その贖罪の形とはどうあるべきか。個々人によって答えは異なる。罪は絶対に許されないという人もいるだろう。それでもなお、答えと贖罪を求め続けるトルフィンの旅は、このシーズン2から、本当に始まった。平和に、平穏に生きるためにどのようにすれば良いのか。誰もが考えるきっかけとして、今作は現代日本に最も重要なテーマを突きつけている。

参照

※ https://vinlandsaga.jp/special/embassy_report/

■放送情報
『ヴィンランド・サガ』SEASON2
TOKYO MX、BS11ほかにて放送中
キャスト:上村祐翔、武内駿輔、小野賢章、佐古真弓、林勇、手塚秀彰、楠大典、小松史法、麦人、上田燿司、大塚明夫ほか
原作:幸村誠『ヴィンランド・サガ』(講談社『アフタヌーン』連載)
監督:籔田修平
シリーズ構成・脚本:瀬古浩司
キャラクターデザイン・総作画監督:阿比留隆彦
美術監督:竹田悠介
美術ボード:大貫賢太郎、平林いずみ
色彩設計:橋本賢、西田みのり
撮影監督:川下裕樹、松向寿
編集:木村佳史子
3DCG監督:小川耕平
音響監督:はたしょう二
音響効果:長谷川卓也
音響制作:サウンドチーム・ドンファン
音楽:やまだ豊
オープニング・テーマ:Anonymouz 「River」
エンディング・テーマ:LMYK 「Without Love」
制作:MAPPA
製作:ヴィンランド・サガ SEASON2製作委員会
©幸村誠・講談社/ヴィンランド・サガ SEASON 2 製作委員会
公式サイト:https://vinlandsaga.jp/

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