『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』子供から大人まで虜に “本気のおふざけ”が生み出した熱狂

『ドンブラザーズ』が生み出した熱狂

 「斬新で目が離せない」と大人も熱狂させた『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(テレビ朝日系/以下『ドンブラザーズ』)。最終話直前まで新たなキャラが増えるなど見逃せない展開が続き、毎話放送後はSNSのトレンド上位に関連ワードが並んだ。

観たことないスーパー戦隊! 『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』掟破りの展開に目が離せない

<ことーしことし あるところに 4人のお供と 1人の暴太郎がいた>  神輿に乗り、扇子をあおぎながら現れるレッドに、「ドンドン…

 第44話までブラックの正体をメンバーが知らない、全員揃って「◯◯ジャー!」という名乗りがないなど、“お決まり”を破りつづける展開が続いた。もちろん大人だけではなく、筆者の家庭でも3人の子どもたちと全話欠かさず視聴した初のスーパー戦隊シリーズとなった。そこで本作の独特な面白さを紐解きたい。

最終回直前まで増え続ける異質な設定

 脚本を担当したのは、40年以上にわたり東映作品の脚本を手がけてきた井上敏樹。井上の作風は、勧善懲悪のヒーローものよりも、ヒーローのダメな部分や弱さ、人間らしさを描くところだろう。長く続くスーパー戦隊シリーズの醍醐味は、毎回1話完結で面白さを盛り込む、ロボット戦が入るといったものだ。しかし、逆にそれが制約となってしまったり、時代設定的に入れられないシーンが増えてきている。そうした制約を逆手にとって、いかに面白いストーリーを作るかを考えている、と井上は語っている。(※)

 そこで『ドンブラザーズ』の異質ポイントを改めて振り返りたい。まず、モチーフは日本の昔話「桃太郎」で、主人公のドンモモタロウ(レッド/樋口幸平)が、サルブラザー(ブルー/別府由来)、キジブラザー(ピンク/鈴木浩文)、イヌブラザー(ブラック/柊太朗)、オニシスター(イエロー/志田こはく)とともに悪と戦うストーリーだ。初の男性ピンクとしても話題のキジブラザーの身長は220cm、イヌブラザーは100cmで、CGキャラクターがバトルシーンで使われている。

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 主要キャラの周りには謎が多い。例えば、オニシスター=鬼頭はるかとそっくりな漫画を描く謎の漫画家・椎名ナオキの正体や、イヌブラザー=犬塚翼が指名手配されている理由など、回を追うごとに謎が増えていった。ドラマパートが毎回たっぷり描かれているのも特徴で、本筋であるはずのバトルシーンがラスト5分で描かれる、といった回も多かったほど。リズム感とぎゅっと濃縮にまとまった情報量に驚きつつ、次回が気になる展開をみせる。この繰り返しで、第49話まで視聴を続けてきた人も多いだろう。

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 「この戦隊、どうなるの?」と特に感じたのは、イヌブラザー=犬塚翼が探し求めている失踪した恋人・夏美と、キジブラザー=雉野つよしの最愛の妻・みほちゃんが明らかに同一人物だと描写されたときだ。この話題はすれ違いながらも引っ張られ続け、今では「なつみほ問題」のワードがSNS上で飛び交うなど、未だに決着のつかない三角関係を描き続けている。

コメディの中にヒーローたちの日常を描く

 改めて振り返ると、制作発表会見の時点で『暴太郎戦隊ドンブリーズ』として、「鉄火ドンレッド! 牛丼ピンク!」と現れるなど、コメディ要素が全開だった。次回作の『王様戦隊キングオージャー』の制作発表会見はコメディ要素がほぼないまま進行しているので、『ドンブラザーズ』の主軸はコメディなのだと改めて実感する。それでいて、ミステリー要素がしっかり散りばめているから、毎話見逃せない気持ちにさせられるのだ。

「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」制作発表会見

 ブラックの犬塚翼は、第44話まで他のヒーローたちとお互いの正体を知らなかった。これにはずっと「後ろにいるのに! なんで気づかないの!!」とやきもきさせられた。とはいえ、犬塚が単独行動をしている様子を1年近く視聴者として観てきて、困った人を放っておけない性格を知り、キャラクターに思い入れも生まれた。

 プロデューサーの白倉伸一郎氏も「『ドンブラザーズ』でやりたかったことの一つは、日常に根ざした暮らしを営む人たちの物語を描きたい」として、「『戦いにおける大義』や『倒すべきラスボス』をあえてわかりにくくしている。皆、それぞれの仕事や暮らしがありながら、『ときどき集合して戦う』スタイルをとっている」と語っている(※)。

 コメディタッチに彼らの日常を描きつつも、1年かけてそれぞれのキャラクター性が私たちに確実に伝わってきているのだ。

 主人公のタロウはなんでもできる完璧なキャラだが、嘘をつけない。人から料理を振る舞われても正直に「25点だ!」と言ってしまうし、幼少期に誰も誕生日会に来てくれないという悲しい描写があったほど人付き合いが下手だった。さらに、嘘をつくと倒れて脈がなくなってしまう特性があり、これはコメディのシーンで使われていた。

 ところが、第49話にして「嘘をつくと死んでしまう」設定が、思いもよらぬ感動シーンに繋がった。タロウは仲間たちから温かい誕生日パーティを開いてもらう。その時のタロウの子どものような表情。演技経験が少ないながら主役に抜擢された樋口幸平の声の出し方や表情も、1年かけて確実に桃井タロウになっている。

 「(タロウにとっての幸せは)私たちと一緒にいることでしょ?」と聞かれて、否定しようとするも、倒れてしまう。「脈がない……。死んでます!」と喜ぶ仲間たち。ここだけ文字にすると、サイコパスのように思えるかもしれないが、これまで積み重ねてきたものから、脈がない=本当は仲間といるのが幸せだというのが伝わってくるのだ。

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