川越の夜、映画に愛を込めて “負けたこと”がある人は涙する『銀平町シネマブルース』

ワンスアゲイン映画『銀平町シネマブルース』

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、学生時代にアルバイトをしていた映画館3館すべてがなくなってしまった石井が『銀平町シネマブルース』をプッシュします。

『銀平町シネマブルース』

 記憶の中にある初めての映画館体験は家族で観に行った宮﨑駿監督作『紅の豚』。それから約30年、何千回、もしかしたら何万回、映画館で映画を観ているわけですが、いまだに映画館の場内に入る瞬間はなんとも言えないワクワクした気持ちが生まれます。

 大きなスクリーンに、ズラッと並んだ椅子。シネコン特有のポップコーンの匂いや、ミニシアター・名画座の独特の空気。映画館好きが高じて、学生時代は映画館でアルバイトもしましたが、裏側を知ってもなお、未だに映画館の魅力に取り憑かれている自分がいます。

 そんな映画館好きの心を激しく奪っていった映画が『銀平町シネマブルース』。主演の小出恵介をはじめ、名バイプレイヤーの吹越満、宇野祥平ら、いい役者たちが揃った一作ではありますが、本作の一番の主人公と言っていいのが、舞台となる川越スカラ座です。

 自動ドアではない入り口から、映写室、フィルムが保管された部屋、長椅子が置いてあるロビー、電光掲示板ではない新作のポスター……かつては全国にあった街の映画館の姿が、ここには刻まれています。ある世代以上の映画を、映画館を愛してきた方にとっては、この風景だけでもきっとこみ上げてくるものがあると思います。

 借金を背負い、家もなくしてどん底状態だった元映画監督の主人公・近藤(小出恵介)が、映画館・銀平スカラ座の支配人の梶原(吹越満)と出会い、周囲の人々との出会いをとおして、再び立ち上がる、という物語です。ある意味、定番中の定番の物語ではあるのですが、映画という“夢”に魅了されてしまった主人公の姿は決して他人事には思えず、終盤は涙が溢れてしまっていました。

 映画製作の裏側を題材にした作品や、映画館を舞台にした映画は数多くありますが、本作が素晴らしいのは、夢の終わりと始まりをフラットに見せてくれる部分にあります。どうしても映画館という場所は非日常空間なだけに、それを題材にするだけでエモーショナルな要素が発生します。しかも、歴史の匂いが刻まれた古い映画館ならなおさらです。ただ、本作はそのエモーショナルさを利用しつつも、どうしようもない現実とそれに伴う寂しさをはっきりと突きつけてきます。

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