『終末のワルキューレ』なぜ神と人類の戦いが世界で熱狂を生む? 寛容な宗教観の“新鮮さ”
『終末のワルキューレII』の人気が凄まじい。1月下旬にNetflixで配信されると国内総合TOP10入りを果たし、Netflixのグローバルランキング(非英語)では5位にランクインするなど、国内外で大きな注目を集めている(1月23日~1月29日週)。
本作は『月刊コミックゼノン』(コアミックス)で連載中の梅村真也(原作)、フクイタクミ(構成)、アジチカ(作画)による同名漫画が原作。人類の存亡をかけて行われる全世界の神vs人類のタイマン勝負が描かれ、神話に登場する神々や歴史上の偉人など様々な登場人物が熱き戦いを繰り広げる。これまでに原作は累計発行部数1400万部を突破しており、「このマンガがすごい!2019 オトコ編」や「全国書店員が選んだおすすめコミック 2019」、「第2回マンガ新聞大賞」など、数々の漫画賞に入賞。アニメ第1期が2021年6月中旬に配信されるやいなや、国内外でも大きな話題を呼んだことは記憶に新しい。
ここまで国内外で支持されているのはなぜなのだろうか。本稿では、『終末のワルキューレII』がなぜヒットしているのか、その要因を考察してみたい。
本作を語る上で外すことができないのは、その壮大なスケールの世界観である。つまりは神VS人類というシンプルな対立構造だ。ここまでストレートな対戦を描いた作品はこれまでほとんどなかった。あまりに単純な構造であるがゆえに、ストーリーに落とし込むのが難しい。しかし、本作は一切の捻りを入れることなく、神と人類の対立構造を明確に描いた。これこそが最大かつ大きな魅力だろう。
本作には北欧神話に登場するトールやギリシア神話に登場する全知全能の神・ゼウスといった神々をはじめ、人類には『三国志』で名を馳せた呂布奉先や宮本武蔵との巌流島での決闘でも知られる佐々木小次郎といった歴史上の偉人や有名人が多数登場する。決して交わることがない年代も国も異なるキャラクターが真っ向から戦い合うという王道展開には胸が熱くなってしまう。それらの歴史的背景を知っていればより深く楽しめるという点も歴史好きにはたまらない部分だろう。
本作の第1話で神は我々視聴者の目にはまるで悪のように描かれるが、回を重ねるに連れて決して神が悪者だとは言い切れなくなってくる。本作ではキャラクターのバックボーンが多くの尺を使って描かれており、どういう信念を持って戦いの場に立っているのかが丁寧に伝えられる。そうであるがゆえに、最初は神=敵という認識で観ていた人も、対戦の中でそれぞれのキャラクターがどのように形成されていったのかを知り、いつしか感情移入してしまう。
例えば、ジャック・ザ・リッパーVSヘラクレスの対決。売春婦の母に過酷な環境の中で育てられていたジャックは母親からの純粋な愛情に幸せを感じていたが、その愛情が自分に向けられていないことを知り、母親を刺殺してしまう。一方でヘラクレスはかつてアルケイデスという名前の人間として生まれ、「正しき者の味方でいたい」という正義感から故郷を守るために神の進軍を阻止した過去が明かされる。戦いを通して神も人類もそれぞれがトラウマや悲劇の経験の上に強さがあることがわかるのだ。