『家庭教師のトラコ』はまさに“橋本愛劇場” 心揺さぶる問題提起と普遍的なメッセージ

『家庭教師のトラコ』はまさに“橋本愛劇場”

 橋本愛が地上波民放連続ドラマ初主演を務めた『家庭教師のトラコ』(日本テレビ系)のBlu-ray/DVD BOXが2月8日に発売された。

 本作は、社会現象を巻き起こした『家政婦のミタ』(2011年/日本テレビ系)をはじめ、近年では『過保護のカホコ』(2017年/日本テレビ系)、『同期のサクラ』(2019年/日本テレビ系)、『35歳の少女』(2020年/日本テレビ系)といった話題作を世に放ち続けている脚本家・遊川和彦とプロデューサー・大平太のタッグによる最新作。遊川が以前から興味があり、自身もアルバイトの経験があった「家庭教師」を題材にした。

 コンセプトにあるのは「家庭教師ではなく、“家庭”の教師」。「どんな志望校にも合格率100%」を謳う謎の家庭教師・トラコ(橋本愛)は、様々な問題を抱えた3つの家庭(子供だけでなく母親を含めた6人)の依頼を受けて、家庭そのものにアプローチしていく。

 『家庭教師のトラコ』において、これまでの遊川作品になく斬新でキャッチーだったのが、トラコのコスチュームである。キービジュアルにもなっているメリー・ポピンズ風の衣装のほかにも、熱血教師風、妖しい教師風といった3つの家庭での基本となる姿に、エレベーターガール、若奥様、看護師、芸人、金髪ギャルまで、毎話で展開される「トラコ コスチューム コレクション」は作品全体に目新しさを与えていた。衣装に関しては橋本自身がアイデアを出している部分もあり、それらを全て着こなしてしまうモデルとしての姿もさすがだ。

 そして、目を見張るのがコスチュームごとにしっかりとキャラクターを変えていること。つまりは、3つの家庭ごとにトラコは印象を変えており(そこにはトラコの策略がある)、それを橋本愛はガラッと演じ分けているのだ。メリー・ポピンズ風のコスチュームでは常に笑顔をたたえながら時に冷徹なキャラを、熱血教師風ではひたすらポジティブな姿を、妖しい教師風では艶やかさを演出。さらに、仕事のパートナーとしてトラコの秘書を務める福田福多(中村蒼)の前で見せる、少々ズボラな格好でエンジンを切った素の姿は、彼女のもう一つの面とも言えるだろう。遊川と大平は、『同期のサクラ』や『35歳の少女』を通して、橋本の演技に魅了され、満を持して今作の主演に抜擢したというが、彼女に全幅の信頼を寄せていなければ、ここまでの難役を任せることはしなかったはずだ。

 まさに“橋本愛劇場”と言いたくなるような、トラコという役柄の真髄は、そのミステリアスな雰囲気の奥にある「怒り」の感情にこそある。そもそも遊川にとって「怒り」とは創作活動における源泉だ。「今の世の中が『どうでもいいや』とか思ってる人は書けない」「なんでこんな不公平なんだ、なんでうまくいかないんだよ、なんで愛されないんだよっていうことが、人間の根っこになってる」と語っている(※)ように、遊川の作品に通底しているのは人間の奥底に溜まっているわだかまり――人間の本質、世の中に対する問題提起だ。

 「国語、算数、理科、お金。」というキャッチコピーが付けられた本作で、トラコが3つの家庭にレクチャーしていくのは「正しいお金の使い方」だ。富裕層(上原家)、中間層(中村家)、貧困層(下山家)を登場させることで日本の各世帯の現状を描きながら、トラコの真の狙いにあったのは不条理にお金が使われていることへの憤り、「正しくお金が使われる世界を作りたい」という漠然とした思いだった。

 物語が一気に動いていくのは、第7話から。第1話〜第3話までは、知恵(加藤柚凪)、高志(阿久津慶人)、守(細田佳央太)の子供たちが、第4話〜第6話までは真希(美村里江)、智代(板谷由夏)、里美(鈴木保奈美)の母親たちがトラコの奇抜とも言える方法で救われていく流れとなっているが、第7話から最終話となる第10話にかけてはどん底に落ちていくトラコを今度は母親と子供たち、さらに福多が救う怒涛の展開となっていく。

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