ブラッド・ピットはなぜアメリカの暗部を描くのか? プランBでの志と作家性を読み解く

ブラッド・ピットの作家性を読み解く

 描けることと、描けないことに制限がかかる映画業界に挑戦するかのように、『グローリー/明日への行進』(2014年)や『ムーンライト』(2016年)、『ビール・ストリートの恋人たち』(2018年)、『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』(2019年)など、黒人の人権を尊重することが根底にある作品、また選挙を“国民不在のゲーム”であるかのように描いた風刺コメディ『バイス』(2018年)や『スイング・ステート』(2020年)のように、描き方や題材は異なっていてもアメリカの暗部を浮き彫りにするような作品を手掛けていった。

 そして『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』も同様である。今作が描いているのは、ひとりの男による表面上のセクハラ問題だけではなく、そうなってしまった背景にある男性優位主義な映画業界、結果的に性加害者を守るような社会や法のシステムの在り方こそが問題だという方向性に導いているのだ。さらに2023年初夏に日本公開予定の『ウーマン・トーキング 私たちの選択』も、やはり人権を尊重する物語である。

 かつては元妻アンジェリーナ・ジョリーと共に慈善事業家として、多くの国を旅し、世界の現状をその目で見てきたことからも、ブラピの世界に対する視野はかなり広くなっているのだろう。その視野の広さが映画製作自体にも大きく活かされているように感じられるのだ。

 一方では、一見おバカな映画に思えるかもしれない『ザ・ロストシティ』や『ブレット・トレイン』にも出演したり、製作に参加したりもしている。その制作意義も、新型コロナで活気が失われてしまった映画業界に、何も考えないでも楽しめるような、かつてあったビッグバジェットの娯楽大作、ザ・ハリウッドムービーを現代に取り戻そうという志によるものでもある。

ありえない日本描写がクセになる 推しキャラを作って楽しむ『ブレット・トレイン』

伊坂幸太郎の小説『マリアビートル』(角川書店)を原作に実写映画化したブラッド・ピット主演のアクション映画『ブレット・トレイン』。…

 ブラッド・ピットという人物は、映画を通して社会を変えていきたいと本気で思っていて、それを実現してきている生粋の映画人である。そのことを意識しながら、彼の手掛けた作品を観てみると、また少し見え方やメッセージ性も違ってくるだろう。

※記事初出時、本文に誤りがありました。訂正の上、お詫び申し上げます。

■公開情報
『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』
全国公開中
監督:マリア・シュラーダー
製作総指揮:ブラッド・ピット、リラ・ヤコブ、ミーガン・エリソン、スー・ネイグル
出演:キャリー・マリガン、ゾーイ・カザン、パトリシア・クラークソン、アンドレ・ブラウアー、ジェニファー・イーリー、サマンサ・モートンほか
原作:ジョディ・カンター、ミーガン・トゥーイー『その名を暴け―#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い―』(新潮文庫刊、訳:古屋美登里)
配給:東宝東和
©Universal Studios. All Rights Reserved.

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