ブラッド・ピットはなぜアメリカの暗部を描くのか? プランBでの志と作家性を読み解く

ブラッド・ピットの作家性を読み解く

 映画業界が震撼したハーヴェイ・ワインスタインの性暴力事件を記事にしたワシントンポストの記者たちによる実録本『その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い』(新潮社)を原作に映画化した『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』が現在公開中。製作総指揮を務めたのはブラッド・ピットだということをご存じだろうか。

 グウィネス・パルトローが『恋におちたシェイクスピア』(1998年)に出演した際に、プロデューサーであったワインスタインによるセクハラを受けたことは作中でも言及されているが、ブラピとグウィネスがかつて交際していたことは有名な話。つまり元カノに手を出した男をテーマとした作品を、今回手掛けているのだ。

 ブラピといえば、2022年に公開された『ブレット・トレイン』や2月10日から日本公開もされる『バビロン』でも主演を務めている。そんな“ザ・ハリウッドスター”ではあるが、プロデューサーとしての能力にも長けている。

 何より大の映画ファンであり、あらゆる国の映画を観ていて、常に映画業界の発展を願っている。そんな意思で設立されたのが制作会社「プランBエンターテインメント」だ。

『ミナリ』などオスカー有力作を続々制作 ブラッド・ピット率いるプランBの歩み

ブラッド・ピットは、『セブン』、『ファイト・クラブ』、『オーシャンズ』シリーズなどの娯楽的な作品から、『バベル』、『ツリー・オブ…

 プランBは、当時の妻ジェニファー・アニストン、映画プロデューサーのブラッド・グレイと共同で設立した会社であったが、2006年よりブラピの単独所有となった(その後、2022年12月に株式の6割を売却している)。もともと『チャーリーとチョコレート工場』(2005年)や『ディパーテッド』(2006年)といった娯楽作を手掛けていた印象が強かったが、ある時期から大きな方向転換がみられた。

 それは黒人奴隷に間違えられた男の壮絶な南部体験を描いた『それでも夜は明ける』(2013年)あたりからだ。同作は当初、描いているテーマが暗すぎるということと、商業的な成功が見込めないということでパラマウント・ピクチャーズとの交渉が決裂し、独立系作品やアート系作品を扱うフォックス・サーチライト・ピクチャーズ(現:サーチライト・ピクチャーズ)からのリリースとなった作品だ。宣伝や資金面において厳しい状態になったとしても、描きたいこと、そして観客に伝えたいことを明確にした作品を手掛けるようになっていったのだ。

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