佐久間宣行が語る、面白さを生む“構造” 『インシデンツ』は「ゲームやアニメを参考に」
“構造的な驚き”が生み出す面白さについて
ーー本作は映像や美術が作り込まれていますが、『トークサバイバー』の経験が活きているのでしょうか?
佐久間:活きてますね。ルックにこだわって設計したのは、サブスクの場合は何度も繰り返し観てもらいたい気持ちがあるためです。笑いの構造が全部バレた後でももう1回観たくなるようなものにしたいなと思ってたので、演出はこだわりたくて、『架空OL日記』(読売テレビ・日本テレビ系)でバカリズムと組んでる住田崇さんに、全編の演出監督をやってもらいました。
ーー本作でもドラマ要素はありますが、映像作品の中で“面白さ”を演出するにあたって、どのような意識を持っていますか?
佐久間:『トークサバイバー』のドラマパートは全部“振り”です。笑うための装置で、あれは千鳥のノブくんのツッコミが入る想定で作ってます。『トークサバイバー』は基本的に大悟がボケて、ノブくんが突っ込むっていう、千鳥の大きなネタの構造を最大限活かそうと思って作ってるんです。今回はもう一歩違って、ちゃんと「ないもの」を作ろうと思いました。それこそ“お笑い”とか“ドラマ”のジャンルの人たちが作れないものを作ろうと思ったので、コントの部分をしっかり面白く作った上で、その後に起きる「マジかよ」って展開を持ってくる。そうでないと効いてこないと思ったので、そこはこだわって作りました。『トークサバイバー』を作ったときと比べても、初めから狙いは違うところにあります。
ーー今作にそういった驚きの展開を用意したのはどうしてですか?
佐久間:ただ過激なコント番組を作るだけじゃ伝えられにくいテーマみたいなものが、オークラさんと僕との間に共通であったんです。「笑いが必要じゃない世界」「戦争みたいな世界」とか、さらに別のテーマも浮かび上がるような、その“笑い”と“コンプラ”を内包して表現したいなと思って、今回の構成にしました。
ーーすごく面白い試みだと感じたのですが、一方でテーマ性もあり、構成も複雑なものになると置いていかれる視聴者が出てきませんか?
佐久間:どうだろう。たしかに僕の考えだと、第2話が一番偏差値が高いです。もちろん全6話の最後まで観ると全部分かるようにはなっていて、サブスクだったらそういう感じでやってもいいかなと思っています。毎週放送にしてくれと言われたらもう少し説明を多くするかもしれないけれど、今回そうしてないのは一気に観ていただければ理解できるからですね。
ーー意識した番組や参考にしたものはありますか?
佐久間:以前、おぎやはぎとオードリーで『SICKS』(テレビ東京系)という番組を作ったんですよ。そのときに「やれたこと」と「やれなかったこと」を感覚的に覚えていたので、そこは意識していました。あと参考にしたのは、どちらかといえばアニメ作品ですね。ここ10年くらいのアニメって、ストーリーも面白いけど、構造が凝ってるものがたくさんあるじゃないですか。例えば『魔法少女まどか☆マギカ』とか『デカダンス』とか。オークラさんとプロットを作ってるときに、共通認識としてこれらの作品の名前が出ました。あとはゲームですね。ゲームでも構造が変わってるものが好きで、『ブレイブリーデフォルト』や『UNDERTALE』とかが参考資料になっていると思います。
ーーその“構造”について、詳しく教えてもらってもいいですか?
佐久間:ゲームで例えると、「プレイヤーがやってきたことが、本当に世界に貢献してたかというと違ってくる」みたいな展開ですね。つまり、“操られていたオチ”のような、「能動的に見ているものが、そもそもルール自体が違っていた」というものが好きで、それをバラエティーとかコント、ドラマの世界に持っていきたいと思いました。なんでこんなにアニメとかゲームは進んでるのに、ドラマは“普通の”ものが多いのか、と思っていて。もちろん面白いドラマもありますが、それなら僕はドラマの門外漢だからこそ、やりたいなと思いました。
ーーちなみに、今年のエンタメでそういった驚きがあった作品は何ですか?
佐久間:映画『わたしは最悪。』の表現と構造は、すごく素敵だなと思いました。現代性がちゃんとあって、言葉も瑞々しくて、その途中で「嘘だろ!」と思うような表現の仕方が細かいものがあって。でも、その驚きはストーリー上でもあってしかるべきものだと思いながら観ていたので、本当に素晴らしいなと思いました。あと、単純に感動したのは『RRR』かな。あれはもうびっくりしました。あと、人によると思いますけど『THE FIRST SLAM DUNK』、僕は好きでした。原作の一部をただ語り直すだけなのかなと思ったら、そんなふうに表現するんだ、と思わされる構造に驚きました。感動しました。
ーー今回のお話を聞いていても、佐久間さんは常に“ないもの”を作ろうとしていると感じます。今年感動したエンタメも踏まえた上で敢えて聞きたいのですが、今の世の中の視聴者、つまり“マス”が求めているものは何だと考えていますか?
佐久間:いろんな考え方がありますし、それを僕が作りたいかどうかは置いておいて、今の世の中の人からは「嘘が嫌い」「裏切られたくない」って気持ちを感じます。だから漫画もアニメ化するときには原作至上主義というか、原作と違うとキレたりする、みたいなことが結構ありますよね。僕は、それは間違った誠実さだと思うんですが、でもそういう「みんなの満足するもの」とか「みんなを幸せにするもの」を作れよ、みたいな圧力が結構強い気がします。
ーーその空気感の中で、今回の『インシデンツ』、そして「DMM TV」自体の位置付けはどこにあると考えていますか?
佐久間:「DMM TV」は今はアニメが中心で、ちょっと過激めのバラエティ番組を配信してますよね。だからちゃんとその狼煙になるような作品を作りたいなと思って、今回『インシデンツ』で頑張ってます。
ーーさらに言えば、佐久間さん自身はエンタメを通して何をしたいと考えていますか?
佐久間:お笑いが世界に行くのって結構難しいなと、何回も思っているんです。やっぱり文脈とか固有名詞があるものだと、その面白さが海外に伝わるのって難しいじゃないですか。でも、『インシデンツ』みたいなずらし方で、お笑いの要素を入れて作る映像作品はまだ可能性があるんじゃないかなって思っています。なのでそこにチャレンジしたいです。笑いの中で学んだエッセンスでそのまま笑いを作るんじゃなくて、その中で“裏切り”とか“緊張と緩和”みたいな要素を入れる。あとは、笑いってネタもどんどん進歩していて、結構アートフォームみたいになってきているので、そういう要素をちゃんと入れた映像作品って作れるんじゃないかな。そうすると、それはいろんな人に観てもらえると思いますし、それはサブスクでやれるんじゃないかと。なので、どこかでチャレンジしたいなと思っています。
■配信情報
『インシデンツ』
DMM TVにて独占配信中
第1話、第2話、第3話配信中
12月30日(金):第4話配信
2023年1月6日(金):第5話配信
2023年1月13日(金):第6話(最終話)配信
企画総合プロデュース:佐久間宣行
構成・脚本:オークラ
監督:住田崇
出演:森田哲矢(さらば青春の光)、東ブクロ(さらば青春の光)、伊藤健太郎、ヒコロヒー、みなみかわ、林田洋平(ザ・マミィ)、酒井貴士(ザ・マミィ)、筧美和子、岩崎う大(かもめんたる)、野間口徹、秋山寛貴(ハナコ)、足立梨花、岩谷健司、上田航平(ゾフィー)、大久保桜子、大島涼花、岡野陽一、小野川晶、加賀翔(かが屋)、春日俊彰(オードリー)、賀屋壮也(かが屋)、川村エミコ(たんぽぽ)、河邑ミク、菊田竜大(ハナコ)、小林涼子、小林私、小原徳子、権藤ゆかり、紺野ぶるま、サーヤ(ラランド)、サイトウナオキ(ゾフィー)、酒井健太(アルコ&ピース)、永島聖羅、ニシダ(ラランド)、野呂佳代、平子祐希(アルコ&ピース)、峯岸みなみ、八代崇司ほか
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