「平成バラエティ史」を振り返る【前編】ーー“感動×笑い”を洗練させた『めちゃイケ』の功績

“感動×笑い”を洗練させた『めちゃイケ』の功績

 もう間もなく、「平成」が終わり、新元号「令和」の時代が始まる。90年代後半より放送開始した人気番組『めちゃ×2イケてるッ!』や『SMAP×SMAP』『とんねるずのみなさんのおかげでした』(すべてフジテレビ系)などが、この数年の間で放送終了を迎えたことが象徴するように、このおよそ30年でTV番組、とりわけバラエティ番組は大きく変わったように思える。

 TVバラエティにとって、平成とは一体どんな時代となったのだろうか。およそ30年にわたる「平成バラエティ」の歴史を社会学者・太田省一氏に振り返ってもらった。本稿では、その前編をお届けする。(編集部)

『めちゃイケ』から『チコちゃん』へ

 いま、面白いバラエティは? と聞かれたら、『チコちゃんに叱られる!』(NHK/以下、『チコちゃん』)と答えるひとはきっと少なくないはずだ。

 5歳という設定の着ぐるみの女の子・チコちゃんが、「なんで右利きの人が多いの?」のような素朴な疑問を大人にぶつける。そして大人が答えに詰まると、「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と相手を叱りつける。子どもが大人をやり込める逆転の構図。CG技術によるチコちゃんの豊かな表情の魅力とともに、その痛快さが人気の理由だろう。

 そして番組のメインを務めているのが、これがNHKに初レギュラー出演となったナインティナイン・岡村隆史である。

 岡村と言えば、いうまでもなくフジテレビ『めちゃ×2イケてるッ!』(以下、『めちゃイケ』)がブレイクのきっかけだった。その『めちゃイケ』が1996年のスタート以来約21年半に及ぶ番組の幕を閉じたのが昨年2018年3月のこと。そしてその直後の2018年4月に、『チコちゃん』がレギュラー化された。平成の終わりに、岡村隆史という存在を介して人気バラエティ番組のリレーがおこなわれたことになる。

 もちろん『チコちゃん』と『めちゃイケ』では、同じバラエティでもまったくと言っていいほどテイストは異なる。だがだからこそ、両者の違いは、平成においてバラエティにも大きな変遷があったことを物語る。そこで以下では『めちゃイケ』を出発点に、そこから『チコちゃん』に至るまでの平成バラエティ30年余りの歴史をポイント別に振り返ってみたい。

ドキュメントバラエティにおける感動と笑い~『めちゃイケ』が見せた完成度

 平成に入ってまだ間もない1990年代前半、ドキュメントバラエティという新たなバラエティのスタイルが生まれる。1992年開始の『進め!電波少年』(日本テレビ系)がそのパイオニア的番組だ。事前の約束なしに訪れてお願い事をする「アポなし」ロケが一世を風靡。そしてその後、若手お笑いコンビ・猿岩石による「ユーラシア大陸横断ヒッチハイク」が大反響を呼び、社会現象的ブームになった。

 ドキュメントバラエティは、その名の通りドキュメンタリー性を前面に出したバラエティである。出演者は、たとえ芸人であっても芸よりも素の部分をさらけ出すことを求められる。視聴者は、猿岩石が宿代も食事代もない状況になり、やせ細りながらも必死で旅を続ける姿に感動した。バラエティのなかに、笑いに並ぶ要素として感動が入ってきたのである。

 『めちゃイケ』の目玉企画だった「岡村オファーがきましたシリーズ」は、その流れを受けてより洗練されたドキュメントバラエティのかたちを目指したものだった。

 この企画では、目標をクリアするため岡村隆史が奮闘する姿にカメラが密着する。ただその目標の達成には厳しい条件があって、普通に考えれば実現はきわめて困難だ。しかし岡村は、超人的な努力によって予想を超える“奇跡”を引き起こす。ジャニーズJr.としてSMAPのコンサートに出演したのが最初で、その後ムツゴロウ王国で競馬対決をしたり、元世界チャンピオン・具志堅用高とボクシング対決をしたりと数々の名場面が生まれた。

 ただ、感動の比重が大きくなりがちなドキュメントバラエティにあって、笑いの要素を巧みに織り込んでいたのが『めちゃイケ』の特徴だった。所々に笑える場面が挟まるというだけでなく、途中で何気なく出てきた小道具や場面が実は伏線になっていて番組の最後にオチに使われるなど、ドキュメンタリーとバラエティがまさに渾然一体になっていた。中居正広も絡んで『めちゃイケ』が主体となった2004年の『FNS27時間テレビ』は、そうした緻密な構成・演出の集大成と言える。

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