『エルピス』は自身に向けられた刃だ リトマス試験紙のような渡辺あやの脚本

 『エルピスー希望、あるいは災いー』(カンテレ・フジテレビ系)が11月7日に第3話を迎えた。どうやら私たちは見誤っていたらしい。筆者が鈍いだけかもしれないが、今さらながら事の重大さに気づかされた。『エルピス』が扱うのは単純な正義ではなく、社会に生きる個々人の倫理の問題であり、殊に報道やメディアに関わる人間は、例外なく自らのよって立つ場所を見つめざるを得ない。自身に向けられた刃、それが『エルピス』である。

 第3話では、冤罪の真実を探る過程で恵那(長澤まさみ)と拓朗(眞栄田郷敦)が出会う人々の姿が描かれた。八頭尾山連続殺人事件を追う新聞記者の笹岡(池津祥子)、松本良夫死刑囚(片岡正二郎)の取り調べを担当した元警部の山下(谷川昭一朗)と刑事の平川(安井順平)、被害者・井川晴美(葉山さら)の姉の純夏(木竜麻生)。真実に蓋をしようとするのが、松本を取り調べた元警部ではなく、直接本人と接していない現職の刑事であること。事件当時、マスコミに追い回された被害者の父親は、警察が考えた晴美の人物像を受け入れたが、実の姉である純夏だけが、妹を信じるところから真犯人が存在する可能性を認めた。一個一個は細い糸だが、より合わさることで浮かび上がる絵は松本が冤罪であることを示していた。

 恵那と拓朗が撮り溜めたインタビューを編集して『フライデーボンボン』の若手スタッフに見せると一様に興味を示す。会議にかけると意外にもチーフプロデューサー村井(岡部たかし)は面白いと反応するが、プロデューサーの名越(近藤公園)が局長の判断に持ち込み、ボツにされてしまう。冤罪事件の企画を潰す時の中堅どころと管理職のいなし方は、表向きもっともらしさをまとっているが、その実、保身と妥協の産物であり、裏には忖度や数字、長年の経験に基づく業界の論理が透けて見える。そして恵那たちの企画は順当に葬られた。

 予定調和でしかない局員たちの中で、村井の発言だけ毛色が違っていた。いわく「だって面白いじゃん。遺族のインタビューとか撮れちゃっててさ」「怒られたら引っ込めればいいじゃん。どうせ誰もそんなマジで見てないって」。村井が向こうウケを狙っていたとしても、事件を取り上げた影響がどう波及するかわからないはずがない。業界を知り尽くした村井は、事件の企画を通すにはこれくらい割り切らないと無理だと悟っており、だからといって恵那たちの肩を持つわけでもない。村井が本心を明かす日は来るのだろうか。

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