『RRR』世界的ヒットを機に“インド映画”への誤解を解く 言語による作風の違いとは
『マガディーラ 勇者転生』(2009年)や『マッキー』(2012年)、『バーフバリ』シリーズのS・S・ラージャマウリ監督の最新作『RRR』がついに日本でも公開された。それにあわせてラージャマウリ監督と主演のラーム・チャラン、NTR Jr.がプロモーションとして来日したことが話題となっていることからも、『バーフバリ』以降、あまり元気のなかった日本のインド映画市場が再び活気づくことが予想されるが、中途半端にはなってもらいたくない。
アメリカではインド映画がボックスオフィスに定期的にランキング入りする状況が続いているように、すでに世界全体でインド映画のムーブメントが起きている。そしてこの現象は、単なる通過地点に過ぎない。来年から再来年にかけて、コロナ禍で大幅に延期していた超大作、それも圧倒的な母数で市場に攻めてこようとしているのだから。
『RRR』も米アカデミー賞へのノミネートが噂されるように、米アカデミー賞はもちろん、その他の主要な映画賞にノミネートされる未来は意外とすぐそこにまで来ているのだ。
それに比べて日本はというと、ディズニープラスやAmazon Prime Videoで世界的話題となっているインドの映画やドラマの配信がほとんどされておらず、一般劇場では年間10本も上映されていない。このように圧倒的に出遅れている状態だ。
このままでは、インド映画がますます日本人にとって遠い存在になってしまうだろう。「インド映画」とは何なのか、基本的な情報ではあるが、あまり知られていないことがいくつもある。それを知ることで、「インド映画」に対しての視野が広がるはずだ。
そもそも「インド映画」とひとまとめにできるほどの規模ではないということも知っておいてもらいたい。たとえばボリウッドというのも、あくまでヒンディー語の映画のことであって、インド映画=ボリウッドではない。インドという国は多言語国家で、20以上の言語が存在している。ちなみに『RRR』はテルグ語映画、トリウッドというのが正しい。
インドの映画界では、北インドのボリウッド(ヒンディー語映画)が年間で約400本ほど映画を制作し、南インドのトリウッド(テルグ語映画)、コリウッド(タミル語映画)、モリウッド(マラヤーラム語映画)、サンダルウッド(カンナダ語映画)がそれぞれ約200本ほど制作している。(※)
また、映画産業が独自で発展しているのと、近年のNetflixなどの配信サービスの普及やデジタル化でSNSやYouTubeなどで簡単に世界とアクセス可能になったことも重なって、インドの人々の映画自体に対する意識も変わり、インドの映画界は急激な変化を遂げてきている。
日本では去年公開された『グレート・インディアン・キッチン』(2021年)や『ジャッリカットゥ 牛の怒り』(2019年)、もしくは第34回東京国際映画祭で上映された『チュルリ』(2021年)の舞台は南インドのケーララ州。つまりマラヤーラム語のモリウッドだ。作品を観た人だったらわかると思うが、ケーララ州はムンバイなどの都心部と比べると、なかなかの田舎であり、村で裸のおじさんが暮らしているような原始的な地域に思える。
そんな地域であっても、実はスマホが普及しはじめているし、作中にもはっきりと登場してくるように、極端な田舎でも世界の情報とリンクできる状態だ。さらに2025年までには、もっと田舎の方にも光ファイバーが行きわたるとされている。そうなってくると、能力のあるインドの若手クリエイターたちがどんどん世界市場に進出してくることになり、映画業界も更なる発展を遂げることは言うまでもない。