脚本家・渡辺あやが『エルピス』に込めた思い 「人間っていくつになっても変われるもの」

脚本家・渡辺あやが『エルピス』に込めた思い

「自分の書いたものが“濁”を受け留める場所になれれば」

エルピス ―希望、あるいは災い―

ーーちなみに、『エルピス』の脚本は最終話までできているのでしょうか?

渡辺:はい。書き終わっています。

ーー結末はもう決まっているんですね。以前のインタビューで、「ドラマを書くなら創作の喜びがあるべきだ」という趣旨のコメントをしていましたが(※)、渡辺さんにとっての「創作の喜び」とは?

渡辺:ものを作るというのは、私にとって希望そのものです。単純に心底面白いですし、仲間の素晴らしい仕事にも触れられる。今回で言えば佐野さんというプロデューサーの凄さ、クランクインしてからは役者さんたちの才能や、大根さんはじめスタッフたちの情熱、いつもいろんなことに感動します。人の魅力にたくさん触れることができるので、本当に豊かな場だと思います。

ーー今回は民放初ということで、初めて組んだ人も多いですよね。

渡辺:『エルピス』のセリフにも出てくるんですけど、やはり「目の前の人を信じられるっていうことが、希望なんだ」と。人間って、たった1人でも信頼できる人がいれば、希望を持てると思うんですよ。逆に、どんなに物質的に恵まれていても、そばにいる人を信じられなかったら非常に辛いですよね。日本の未来とか世界でもたくさんの問題があり悲観的なことばかり言われる中で、私たちは何に希望を持てばいいのかって言うと、それではないでしょうか。「すごいな」と思う人がいると、とても大きな希望に感じられる。そうやって人が自分の能力を100パーセント開花して生きることができるようになれば、案外、社会は大丈夫なんじゃないかと。

ーー『ここぼく』では主人公の神崎(松坂桃李)が保身ばかり考えていましたが、同級生のみのり(鈴木杏)と再会して変わっていきました。

渡辺:『エルピス』では、それが恵那であり拓朗である。彼らは冤罪事件を追う中でお互いしか信じられない状況になっていくわけで、2人とも、へなちょこでへっぽこなんだけど、とりあえず信じ合う。そして、お互いの潜在能力みたいなものを開いていく。そういうことって、本当に起きるんですよ。実際に身近にいる人でも、個人が持っている可能性ってすごく大きいと感じることがあります。それを隣にいる人が信じてあげるだけでも開花していくので、私自身も周りの人に対してそうしたいし、このドラマを観て、隣にいる人のことを信じる人が増えてくれるといいなと思っています。

エルピス ―希望、あるいは災い―

ーー『エルピス』のテレビ局のような組織にいて「どうせ何をしても会社は変わんないよ」みたいな空気があったとしても、希望はあるのでしょうか。

渡辺:意外と簡単に人って変わったりする。『ここぼく』でも、大学の広報になった神崎と学長(松重豊)の関係がそうで、学長は神崎が信じてくれたからこそ、大学組織を改革するための正しい振る舞いができたんだと思います。

ーー『エルピス』の中でもそういった変化が起きていくのでしょうか?

渡辺:まさにそれが裏テーマみたいなものです。人間っていくつになっても変われるものだと。

ーーところで、既に最終話まで書き上げられたということで、渡辺さんは寡作ということもあり、脚本を書いたら、プロデューサーさんたちは「玉稿が上がって来た」という感じで、直しなんかないのではというイメージがあるのですが。

渡辺:いえいえ、めちゃめちゃ直しはありますよ。特に今回は殺人事件も描いているので、修正を繰り返しています。それに、佐野さんは連ドラのプロですから、「とにかく最初の2話が勝負です!」とハッパをかけられ、「これとこれが足りていません」と入れるべき要素を指摘されました。民放の連ドラにおけるいろんな工夫について、すごく勉強になりました。また、チーフ監督の大根仁さんも、すごく丁寧に台本を読んでくださって意外と細かい赤字がたくさん……。それが本当に怖くて(笑)。大根さんは女子アナに詳しいので、ディティールについて「今どきの女子アナはこうではない」というツッコミをもらいました。他にも、村井の「フライデーボンボンは牛丼屋の紅生姜」というセリフは、始め「ラーメン屋のにんにく」と書いていたんです。すると、大根さんから「今どきのラーメン屋にはにんにくは置いていません」という厳しいご指摘があり、なるほどと思うところもたくさんありました。

ーーそういった指摘やツッコミをわりと素直に反映なさるんですね。

渡辺:素直に聞くところもあれば、ガンとして聞かなかったところもあります。例えば、村井は「セクハラとモラハラとパワハラ」と言われるようなことを口にするので、それをドラマで描くのはリスクもある。でも、そこはどうしても残させてほしいと主張しました。現実にそういうことが起こっているからというのもありますし、それを描くことが文化や芸術の役割だとも思うからです。

ーーハラスメントは批判すべきですが、現状まだまだいろんなところで起こっていますよね。

渡辺:人間のダメな部分、恐ろしい業(ごう)とも言えることを社会の中で引き受ける場所も必要だと思っているんですよ。不都合なところを見えなくしてしまえば、社会がうまくいくかというと、そうではない。少なくとも、私はそれらを描いたものに救われてきたんですよね。古典落語でも、ろくでもないお父さんが娘を借金のカタに売り飛ばしたりしますが、それを描くことは何気ないようでいて、文化の担うべき大きな役割だと、この年齢まで生きてみて思います。

ーー特に、たくさんの人が観るテレビドラマというものにおいては、それを描くべきだということですね。

渡辺:私はね、そう思います。テレビで流すのはリスクが高いのはわかるし、関わっている人には本当に申し訳ないのだけれど、自分の書いたものが清濁で言うと濁を受け留める場所になれればいいと思います。

参照

※ https://www.asahi.com/articles/ASPDR4VSLPDQUCFI00K.html

■放送情報
『エルピスー希望、あるいは災いー』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00~放送
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、三浦貴大、近藤公園、池津祥子、梶原善、片岡正二郎、山路和弘、岡部たかし、六角精児、筒井真理子、鈴木亮平ほか
脚本:渡辺あや
演出:大根仁、下田彦太、二宮孝平、北野隆
プロデュース:佐野亜裕美(カンテレ)、稲垣護(クリエイティブプロデュース)
音楽:大友良英
主題歌:Mirage Collective「Mirage」
制作協力:ギークピクチュアズ、ギークサイト
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/elpis/
公式Twitter:@elpis_ktv

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