脚本家・金子茂樹が明かす仲野太賀への信頼 「苦しい」と思いながらも突き詰める面白さ
2021年、高い評価を受けた連続ドラマ『コントが始まる』(日本テレビ系)。この作品で脚本を務めた金子茂樹が、俳優・仲野太賀を主演に迎え、テレビ朝日系土曜ナイトドラマ枠でシチュエーションコメディ(シットコム)に挑んだ『ジャパニーズスタイル』の放送がスタートした。
スタジオの観客を前に、30分ほぼ一発撮りで繰り広げられる物語は、第1話から大きな反響を呼んだ。「常に視聴者の予想を裏切りたい」と脚本に心血を注ぐ執筆スタイルは時に「苦しいんですよ」と素直な胸の内を明かした金子が、本作の企画のあらましや、再タッグとなった仲野への信頼、脚本家としてのスタイルなどを語った。
「太賀くんは泣きも笑いも怒りも表現できる幅が大きい」
――地上波連続ドラマでシチュエーションコメディを……という企画はとてもチャレンジングな試みかなと思ったのですが。
金子茂樹(以下、金子):もともとテレビ朝日さんと別の企画をやろうとしていたのですが、タイミング的にまだその時期じゃないかなというものだったので、いったん引き上げたんです。そのときにプロデューサーの竹園元さんから「こんな企画はどうでしょう」といただいた企画書がシットコムでした。僕も以前から一度やりたいなと思っていたので、その企画書を見たときには参ったなと思って(笑)。まあでも言葉は悪いですが、地上波のドラマでシットコムの企画が通るわけがないという思いもあって、僕自身あまり能動的に考えていなかったんです。ところが、あれよあれよと話が進んでいったという感じです。
――企画の段階から、主人公は仲野太賀さんという想定だったのでしょうか?
金子:そうですね。シットコムの主役なんて、なかなかできる方もいないだろうなという思いのなか、テレビ朝日さんは仲野さんでやりたいということでした。彼がNOだったら企画自体はなしというぐらい仲野さんへの思い入れは強かったみたいです。僕も仲野さんはいいなと感じていたので、OKしてくれるといいなと思っていました。彼が出演してくれるということになって、僕はこの激動の企画に飲み込まれていった感じですね(笑)。
――温泉旅館という設定も企画書に?
金子:それはまた違う設定のシットコムだったのですが、どうやったら面白くなるのかという内容の話をしていくなかで、日本の旅館を舞台にしたら……というところに繋がっていきました。
――30分ほぼ一発撮りというのも大きなチャレンジですね。
金子:別の局で単発ドラマ(『大河ドラマが生まれた日』/NHK総合)の脚本を書いていたのですが、その作品がテレビドラマの初期を描く話で、生放送ドラマの資料をいろいろと読んでいた時期だったんです。生放送ならではのアクシデントや緊迫感って今の現場では絶対に味わえないもので、ちょっと行き詰まった現在のテレビに風穴をあける意味でも、そういったテイストを持ち込むことで、逆に新しいものになるのでは……という思いでした。でもまさか、この企画が成立するとは……というのが正直な感想でしたね(笑)。
――第1話はとても臨場感のある会話のやり取りが面白かったのですが、結構アドリブがあったのでしょうか?
金子:僕も第1話を観させてもらいましたが、セリフに関しては99%脚本通りだったように感じました。ツッコミのワードなどはちょっとニュアンスが違うところもあったかもしれませんが。自分が書いたセリフをすっかり忘れているから、はっきりとしたことは分かりませんけど(笑)。
――脚本家の立場から第1話はいかがでしたか?
金子:これがテレビで放送されると考えると結構すごいことだなと(笑)。ものすごく異質なものに仕上がっている感じがしました。でもそれは当初から狙っていたところもあったので、たまたまザッピングして、このドラマに当たったら、つい観てしまうだけのものにはなったのかなと思いました。
――特にこだわったシーンなどは?
金子:UNOのシーンですかね(笑)。演じる方はゲームをしながら進めていかなければいけないので、難しいシーンだと思うのですが、映像で観たときにそれなりの異質さを与えることができたのかなと。
――ワンシチュエーションのドラマですが、柱(※シーンの場所や時間の指示)やト書き(※登場人物の動きや状況の指示)はどのように書かれているのですか?
金子:最初に「温泉旅館『虹の屋』」という柱を書いてから、最後まで柱はないですね。あとはト書きも極端に少ないと思います。脚本を書き始めた頃は結構ト書きを細かく書いていたのですが、ある時期から自分のなかで「こう動いてほしい」と思っていても、極力省くようにしているんです。僕的には動きよりもセリフのテンポで見せたいという思いがあるので。そっちの方が面白く感じるんだったら、あえてト書きはいらないかなと。先日現場に行ったとき、ある役者さんから「もう少しト書きがほしい」って言われたぐらいです(笑)。特にこの作品は、それくらいセリフの応酬で話を展開していった感じです。
――俳優さんに任せる部分が大きい?
金子:そうですね。お任せしても十分対応してくださる方ばかりですからね。一方的に信頼しているというか、お預けしてどう動いてくれるかというのを観る楽しみもあります。
――仲野さんは当て書きだったのでしょうか?
金子:はい。僕は基本的に当て書きしたいタイプなので。太賀くんがどうやったら魅力的に見えるかというのは、かなり意識して書いています。太賀くんは泣きも笑いも怒りも表現できる幅がすごく大きいので、その部分は存分に出るように書いたつもりです。
――仲野さん以外にも、市川実日子さんや要潤さん、石崎ひゅーいさん、檀れいさん、柄本明さん、KAZMAさんなど個性的な俳優さんがたくさん登場します。
金子:それぞれキャストが決まってからは、その俳優さんがどういったものを演じたら面白くなるか……というのはかなり考えました。
――仲野さんは『コントが始まる』でもご一緒されていますが、金子さんから観た仲野さんの俳優としての魅力は?
金子:一つはコメディセンスがとても優れている方だなと思います。間がとてもいいですよね。どういう風にセリフを言えば一番受けるかというのをちゃんと分かっている人なんでしょうね。それこそ渥美清さんやフランキー堺さんのような喜劇俳優さんがいましたが、ゆくゆくはそういう存在になってほしいなと思っています。
――クランクアップ後、仲野さんとお話する機会があったと聞きました。
金子:そんなに込み入った話をしたわけではないのですが「本当に生きてて良かったね」と話しました。膨大なセリフ量だし、長回しでかなりハードな撮影だったと思うんです。撮影が終わった瞬間、その場に倒れてしまってもしょうがないぐらいだと思っていたので。でも終わったあと「楽しくやれました」と言ってくれたので、それは良かったなと思いました。
――仲居頭・浅月桃代役の檀れいさんもぶっ飛んだ役で驚きました。配役は金子さんのアイデアですか?
金子:さすがに僕はまっとうな人間なので、あの役を檀さんで……というのは言えませんよ(笑)。僕もびっくりしたのですが、いままで見たことのないような檀さんがいるなとは思いました。檀さんも「もう引き返せません」とおっしゃっていましたし(笑)。