最終話まで視聴者を謎の底へ ドラマアレンジで得た『シャイロックの子供たち』の不穏さ
こういったドラマならではのアレンジは、各登場人物の見せ方にも大きく現れている。
原作小説の面白さは各登場人物の背景が丁寧に語られることだ。どのような経緯で、銀行で働くようになったのか? 家族や恋人との関係は? 学生時代に打ち込んでいたスポーツは? といったことを、テンポよく紡いでいくことで彼らの人生を追体験しているような気持ちになる。だがこれも、ナレーションなどで全てを説明してしまうと説明過多になってしまうため、ドラマでは会話の節々で滲み出るものとして最小限に留めている。
対して濃密に描かれるのが、抑制されながらも熱のこもった俳優たちの演技だ。たとえば、小説では第1章で主人公となる副支店長の古川一夫(萩原聖人)は、ドラマ版では部下を怒鳴り散らしノルマ達成を要求するパワハラ上司だった。しかし、融資課の小山(森永悠希)を怪我させて抗議を受けたことをきっかけに、逆に追い詰められる立場に変わっていく。その結果、最初は高圧的で嫌な上司にみえた古川が高卒の叩き上げゆえに弱さを抱えていたことが明らかになっていくのだが、萩原聖人は圧の強い芝居で古川を見事に演じている。
やや余談となるが、筆者にとって萩原は若手の頃から見続けてきた俳優で、いくつになっても、少し年上のカッコいいお兄さんという印象だった。だが本作では、恰幅が良くて、嫌なことを言うおじさんというヒールを見事に演じきっていて、驚いた。西木を演じる井ノ原快彦や坂井を演じる玉山鉄二もそうだが、若い時はカッコいいお兄さんだった彼らが、癖の強いおじさんをシリアスに演じていることも本作の面白さだ。
おそらく原作小説を事前に読んでいた人ほど、ドラマのアレンジに驚くのではないかと思うのだが、同時に本作は原作小説の精神をとても大切にしている。
それは、生活に密着した空間でありながら、どこか遠い世界にみえる銀行の不可思議さと、そこで働く人々の姿を丁寧に描くということだ。仕事こそ巨額のお金を動かす複雑な仕事だが、銀行員の抱える悩みは、一般企業で働く人々と変わらない。
銀行員もまた組織のしがらみに翻弄されるサラリーマンなのだと、悲哀を込めて描いているのが『連続ドラマW シャイロックの子供たち』なのだ。
■放送・配信情報
『連続ドラマW シャイロックの子供たち』(全5話/episode0含む)
WOWOWにて、毎週日曜22:00〜放送・配信
WOWOWオンデマンドでepisode0~episode3をアーカイブ配信中
11月6日(日)18:30分~「まだ間に合う!episode0~episode3一挙放送」
出演:井ノ原快彦、西野七瀬、加藤シゲアキ、三浦貴大、前川泰之、萩原聖人、玉山鉄二
原作:『シャイロックの子供たち』池井戸潤(文春文庫刊)
脚本:前川洋一
監督:鈴木浩介
製作:WOWOW、東阪企画
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/shylock/