『四畳半タイムマシンブルース』に仕掛けられた数々の小ネタ “悪魔的融合”が成功した理由
『サマータイムマシン・ブルース』にはない、『四畳半タイムマシンブルース』ならではのオリジナルとして、打ち上げに向かうラストシーンがある。
陽がほとんど落ちている夕方に、鴨川デルタでわいわい喋りながら中華料理店ヘと向かう彼らの様子が、まさに青春だった。時間に追われることなく、ダラダラと過ごせるのは、彼らが時間は無限にあると錯覚している大学生だからだ。
「私」は有意義な大学生活を送ろうと奮闘しているが、「不毛」に過ごせるのも大学生の特権なのである。社会人になると、大学生の時にくだらないことで盛り上がった、あの不毛な時間が恋しくなる。そんな懐かしさを感じたのが、打ち上げに向かう場面であった。
そしてもうひとつ、映画『サマータイムマシン・ブルース』と『四畳半タイムマシンブルース』で異なるのは、タイムマシンを生み出した人物だ。明確には描かれていないが、映画『サマータイムマシン・ブルース』でタイムマシンを誕生させたのは、SF研究会の顧問で大学助手の保積だった可能性が高い。
一方で、『四畳半タイムマシンブルース』でタイムマシンを完成させたのは、下鴨幽水荘タイムマシン製作委員会であった。実は彼らの正体は、原作原案・脚本を務めた上田誠をはじめとするヨーロッパ企画の面々なのだ(※)。
下鴨幽水荘タイムマシン製作委員会発足のきっかけとなった飲み会で、酔っ払いながら激しく議論する様子を観ていると、『サマータイムマシン・ブルース』が誕生する際もこのような出来事があったのではないかと考えてしまった。タイムマシンだけではなく、そもそもこの物語自体を生み出したのは、下鴨幽水荘タイムマシン製作委員会、すなわちヨーロッパ企画である、というメッセージ性も感じられたのは、大袈裟だろうか。
「これは〇〇を示唆しているのでは?」と、推測して物語を追えたので、とても楽しく鑑賞できた。2回目、3回目、と繰り返し観ることで、新たな発見があるかもしれない。
『サマータイムマシン・ブルース』と『四畳半神話大系』が悪魔的融合に成功したのは、どちらも、くだらないことに熱中できる、愉快なキャラクターたちが登場していたからだろう。「私」や小津、明石さん、樋口師匠だからこそ、「壊れたクーラーのリモコンを救うために過去に戻る」というタイムマシンのムダ遣いができたのだ。
本作における明石さんの言葉を借りるなら、「時間は一冊の本」で、未来は既に決まっているのかもしれない。『サマータイムマシン・ブルース』と『四畳半神話大系』が融合する運命も、実は両作品が誕生した時点で既に決まっていたのではないか、と、思わずにはいられない。それほど見事にハマっていた作品が、『四畳半タイムマシンブルース』だった。
参照
※『四畳半タイムマシンブルース』劇場用プログラム
■公開・配信情報
『四畳半タイムマシンブルース』
劇場版3週間限定公開中
ディズニープラスにて独占配信中
キャスト:浅沼晋太郎、坂本真綾、吉野裕行、中井和哉、諏訪部順一、甲斐田裕子
原作:『四畳半タイムマシンブルース』森見登美彦著、上田誠原案(KADOKAWA刊)
監督:夏目真悟
脚本:上田誠(ヨーロッパ企画)
キャラクター原案:中村佑介
音楽:大島ミチル
主題歌:ASIAN KUNG-FU GENERATION「出町柳パラレルユニバース」
アニメーション制作:サイエンスSARU
配給:KADOKAWA/アスミック・エース
©︎2022 森見登美彦・上田誠・KADOKAWA/「四畳半タイムマシンブルース」製作委員会
公式サイト:https://yojohan-timemachine.asmik-ace.co.jp
公式Twitter:https://twitter.com/4andahalf̲tmb