『四畳半タイムマシンブルース』に仕掛けられた数々の小ネタ “悪魔的融合”が成功した理由

『四畳半~』に仕掛けられた数々の小ネタ

 ディズニープラスにて配信中のアニメ『四畳半タイムマシンブルース』。森見登美彦原作のTVアニメ『四畳半神話大系』に登場するキャラクターたちが、舞台化や実写映画化されたヨーロッパ企画の上田誠による戯曲『サマータイムマシン・ブルース』の世界へと訪れ、“不毛と愚行の一日”を過ごすストーリーだ。本作の感想を一言で表すならば、見事に“悪魔的融合”を遂げていたと思う。その理由を、本記事で綴っていく。

 原案となった『サマータイムマシン・ブルース』は、とある大学のSF研究会の部室を舞台に、突如現れたタイムマシンを使って、壊れたクーラーのリモコンを昨日から取り戻そうと画策する物語である。後半で“過去を変えたら現在が消滅してしまうのではないか?”という仮説が浮上し、現在と辻褄が合うように、過去を変えないよう調節していく様子が滑稽だ。

 『四畳半タイムマシンブルース』は、「真夏の暑い日に、コーラによってリモコンが壊れる」「タイムマシンが登場する」「過去に戻ってクーラーのリコモンを取り戻そうとする」「その道中で、過去を変えてはいけないことに気が付く」という『サマータイムマシン・ブルース』の大筋を変えてない。

 ケチャが登場したり、カッパ様の石像があったり、オアシス湯に通っていたり、ヴィダルサスーンが盗まれたり……といった、細かな設定もさりげなく活かしているのが、本作の魅力だろう。

 印象的だったのは、未来からやってきた青年・田村くんの存在だ。“スマートな未来人”のイメージとはほど遠い、モッサリとした見た目で、モッサリとした話し方が特徴である。

 田村くんを演じたのは、ヨーロッパ企画の本多力。実は、舞台&映画『サマータイムマシン・ブルース』でも田村くん役を務めている。同一人物が演じていたから、空気感や、みんなの田村くんへの接し方が、2作とも似ていた。

 『四畳半タイムマシンブルース』に登場する田村くんの方が、「僕にだって、タイムトラベラーとしての自覚はありますから」と言うくらいには、二枚目なメンタルの男であった。後に触れるが、“四畳半”に登場するキャラクターたちはそれぞれ個性が強いため、それくらい個性を出していた方が、インパクトがある。

 『四畳半神話大系』は、バラ色のキャンパスライフを夢見る「私」が、パラレルワールドでさまざまなサークル活動に所属し、充実させようと奮闘する物語。“他人の不幸をおかずに飯が喰える男”小津や、先輩にも負けじと物申せる明石さん、「私」が暮らす下鴨幽水荘のヌシ樋口師匠など個性あふれるメンバーが登場する。

 『四畳半タイムマシンブルース』は、ベースに『サマータイムマシン・ブルース』があったものの、タイトルに“四畳半”とつく分、“四畳半”らしさもしっかり感じられた作品だった。その理由は、“四畳半”のキャラクターたちが、それぞれの個性を活かした立ち振る舞いをしていたからだろう。

 コーラを倒したのが小津だったり、ヴィダルサスーンの持ち主が樋口師匠だったり、カッパ様の石像のモデルが城ヶ崎先輩だったり。“この人だったら、確かにやりそう”と、キャラクターのイメージと合致した出来事が次々と展開されていく。

 登場するアイテムも、“四畳半”らしかった。物語のキーアイテムであるタイムマシンは、畳1畳分ほどの大きさで、中央に座席、端にレバーと操作ダイアルがある作りだ。『サマータイムマシン・ブルース』に登場したタイムマシンは、ギラギラした見た目で、メカっぽい構造になっていたので、“四畳半”のタイムマシンの方がシンプルである。足を組んだ姿勢で未来へ行く、というのがシュールだ。

 そして、『四畳半神話大系』でも登場した、明石さんのお気に入り「もちぐま」も、重要なアイテムとして活躍する。「私」の好機の象徴であると言えるもちぐまは、本作でも明石さんと「私」を繋ぐ大事なアイテムであるほか、田村くんのルーツを知る一助ともなった。

 “四畳半”ファンとして嬉しかったのは、『四畳半神話大系』の続きが観られた点である。キャラクター同士の関係がすでに構築されていて、顔見知り以上の仲の良さから物語が始まったのがよかった。懐かしいテンポ感で物語が進んでいく。

 “運命の黒い糸”で結ばれている「私」と小津は、本作でも数々のバトルを繰り広げていた。これまでの絡みと少し違うのは、体を張って取っ組み合いをしていたところだ。小津がクーラーのリモコンを壊したのが気に食わなかったり、「私」が不自然にその場から立ち去ろうとするのを怪しく感じたりと、大抵の理由はしょうもない。

 だが、「私」が古本市で明石さんを五山送り火見物に誘えなかったときに始まった取っ組み合いは、小津の「私」への愛を感じた場面である。「今ならやり直せます。なんのためのタイムマシンです」と諭すように「私」に伝えた小津は、悪魔ではなく恋のキューピッドのようであった。

 「私」と明石さんの恋の行方にも注目である。「私」の、五山送り火を一緒に見ようと上手く誘えないもどかしさや、既に誰かと約束をしたと聞いた時の後悔がこちらまで伝わってきた。最後に、明石さんが誰と送り火見物に行くのが分かった時は、これまでの“四畳半”では味わったことのなかった甘酸っぱさを感じたのである。

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