中川大志の畠山重忠を目に焼き付けろ! 若手屈指の“時代劇俳優”としての凄さ
畠山重忠人気が加熱した3つの理由
そうしたステップを踏まえた上で、今回の畠山重忠がある。むさ苦しい坂東武者たちの間で、一陣の風が吹くような清涼感を持つ重忠は、序盤から目を引く存在感があった。
重忠人気の理由はいくつも考えられるが、そのひとつが和田義盛(横田栄司)との関係性。中川は落ち着いた低い声で重忠の思慮深さを表現し、豪快な義盛とのコントラストをつけた。一方、壇ノ浦の戦いの末に安徳帝(相澤智咲)が入水を図る場面では、重忠と義盛だけが手を合わせて祈りを捧げ、正反対の2人が根っこの部分では近いものを持っていると感じさせてくれた。畠山重忠の乱で義盛がどう動くかは、大きな見どころのひとつだろう。
凛々しさや聡明さが際立つ一方、音曲に対しては並々ならぬこだわりを持つなど、コミカルな面も持ち合わせているところが重忠人気の理由だった。特に決定打となったのは“見栄えネタ”。源頼朝(大泉洋)が上総広常(佐藤浩市)を差し置いて重忠に先陣を任せる際に使った「若くて見栄えのする方が良い」という台詞をきっかけに、“見栄えのいい男・重忠”が定着。特に三浦義村(山本耕史)から「お前は裏に回るには見栄えが良すぎる」と言われ、「やはり見栄えが……」と引き下がる場面は、中川大志らしい生真面目な演技で笑いを誘った。
そして、この見栄えを決してただのネタにしないところが、畠山人気最大の理由だ。頼朝暗殺を企てる曽我五郎(田中俊介)が寝所を襲撃する場面では、敵の気配に気づきわずかに振り向く視線だけで武士の色気と殺気を表現。雨の中、刀を振るう姿は美しくも凄絶な気迫がみなぎっていた。また、比企一門襲撃の際は、共に戦った比企の家臣を容赦なく斬りつけ、その華麗さで視聴者を魅了すると共に、忠君の心を殺陣で表した。
中川大志は現在24歳。50歳の横田栄司とは年齢が倍以上も離れている。また、役柄では同世代である小栗旬ともひと回り以上離れており、年下設定である坂口健太郎や瀬戸康史よりもずっと若い。にもかかわらず、堂々たる貫禄を放っているのは、これまでの大河ドラマ出演で身につけた時代劇の所作や佇まいの美しさによるものだろう。時代劇スターとしての輝きに、長年の大河ドラマファンもすっかり心を奪われている。
群雄割拠の若手俳優だが、時代劇をしっかりと演じられる俳優となると数少ない。中川大志はその筆頭格として確かなポジションを築きつつある。その凛とした品格と、古風な顔のつくりは、むしろ時代劇でこそ活きると言ってもいいかもしれない。
すでにファンの間では未来の大河主演俳優としての呼び声も高まっている。ぜひ中川大志には現代劇もやりつつ、時代劇俳優としての道を極めてほしい。そもそも彼の映画デビューは『半次郎』。ここでも中川大志は西南戦争で壮烈に命を散らす少年志士を演じている。令和のラストサムライとしての道が、中川大志はスタートラインから運命づけられていたとも言えるだろう。
だが、今ここでそんな遠い未来のことを論じるのは時期尚早というもの。まずはたくさんの人に愛された畠山重忠の生き様を目に焼きつけたい。
果たしてどんな最期が待っているのか。私たちは伝説の目撃者になろうとしているのかもしれない。
■放送情報
『鎌倉殿の13人』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:小栗旬
脚本:三谷幸喜
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
写真提供=NHK