『鎌倉殿の13人』坂東彌十郎演じる時政、愛ゆえの暴走 どこまでも実直な畠山重忠が切ない

『鎌倉殿の13人』時政、愛ゆえの暴走

 『鎌倉殿の13人』(NHK総合)第35回「苦い盃」。源実朝(柿澤勇人)の婚礼が近づく裏側で、北条時政(坂東彌十郎)とりく(宮沢りえ)は愛息・政範(中川翼)を失っていた。そんな中、娘婿・平賀朝雅(山中崇)が畠山重忠(中川大志)の嫡男・重保(杉田雷麟)への疑惑をりくに告げる。一方、義時(小栗旬)は重保から朝雅の振る舞いについて相談を受け、時政と重忠の板挟みとなる。

 物語の終わりに、愛妻・りくを信じた時政が実朝の下文を得たことで、北条と畠山の戦いは避けられないものになった。第35回では、一貫してりくを想う時政の心が改めて感じられた。時政の言動は全て、りくを守るためのものなのだ。

 政範を失い、失意の底にあるりくを励まそうとする時政の姿はとても優しい。時政はりくに一目惚れをし、彼女と結婚した。誰よりも何よりも大切なりくが失意の底から立ち直れないのが心配で心配でたまらないのだ。時政が困り果てた表情で「気弱なお前を見ているとどうしたらいいか分からなくなるんだよ」と正直な気持ちを話すと、りくは「しい様らしい」と口元をゆるめた。ふっと笑みを浮かべたりくも、自分のことを大切にしてくれる時政が愛おしいのだろう。この夫婦のやりとりから、時政とりくがお互いを信頼していることが窺える。「もう大丈夫」と言うりくを時政は心配そうにじっと見つめ、彼女に微笑みかけていた。

 りくは時政の出世に熱心で、度々時政をたきつけてきた。りくの意向が色濃く表れる時政の言動には御家人たちからも不満の声があがりつつある。そんな中、りくは朝雅から政範の死に重保が関わっていると告げられ、「政範の敵をとってくださいませ」「畠山を討ってちょうだい!」と時政に仕向けた。政範の死の真相は不確実で、義時は「この件に関しては軽はずみに答えを出すべきではない」と訴える。しかし時政の心はとうに決まっていた。

 時房(瀬戸康史)は時政に「父上、義母上に振り回されるのはもうおやめください」と訴えかけ、義時は三浦義村(山本耕史)との会話の中で「父上はりく殿に入れ知恵され、すっかり戦う気だ」と話す。だが時政自身は、りくに振り回されているとも、彼女が入れ知恵しているとも思っていないはずだ。もちろん、りくが「畠山を退けて、足立を退けて、北条が武蔵国の全てを治めるのです」と促したときには、「りく、やっぱり、わしら無理のし過ぎじゃねえかな」となだめた。けれど「政範だけでは済みませんよ。次は私の番かもしれないのです」というりくの言葉には即座に「それはいかん!」と声をあげる。

 時政は政子(小池栄子)や実衣(宮澤エマ)の前では彼女たちの父親らしいおおらかな風采を見せていたが、今回ばかりは子供たちの願いを聞き入れられなかった。暗がりで一人、実朝が戻ってくるのを待つ姿には緊張感が漂う。下文を得る際、孫である実朝に朗らかな笑顔を見せた時政だが、その目の奥には、りくを守るためなら実朝までをも利用する抜け目のなさが光っていた。

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