『ちむどんどん』矢作は決して“悪役”ではない 問われる暢子の経営者としての決断力

『ちむどんどん』店の命運を握るのは?

 矢作の断る態度は正しい。同情して自分が雇われた以上の仕事を、賃金をもらわずに手伝い始めるとしよう。それは徐々に膨れ上がり、気がつけば「それをやってもらって当たり前」な状況が生まれてしまう。仕事の領域をしっかり分けること、仕事に見合った対価を受け取ることで従業員とオーナーの間に信頼関係は生まれる。逆に、無一文で「ノー」と言いづらい矢作に暢子が雑用まで押し付けてしまうのは、ブラック会社一歩手前の行為でもあるのだ。だから、その点毅然とした態度でいる矢作がすごく偉い。仕事の配分も立派な経営者の務め。自分がどれだけ現場に関与しなくても店を回すことができるか現実的に分析し、それに必要なことを実行していく決断力を暢子は身に付けなければいけない。

 絶対的に、「ちむどんどん」は開店前からピンチである。とはいえ、突然フリーランスになると宣言し苦戦することが予想された和彦(宮沢氷魚)も、あっさりと雑誌で企画が買われ、さらりと連載企画が始まっている具合。登場人物が現実的な挫折を味わうことが少ない本作において、メタ的に考えれば「ちむどんどん」もオープンしたら意外と人気店になって万事順調、というふうになるかもしれない。ただ、店はオープンさせた直後も大切だが、その後どれだけ長く繁盛させ続けるかが重要だ。最初だけお客が来ても、客足が途絶えることは珍しくない。そういった問題が浮上した時、初めて暢子が“自らの力で”これまでの学びを活かし、解決していくことに期待したい。店の命運を握るのは、ピンチヒッターの矢作でも、歌子でもなく暢子だから。彼女が学び、変わらなければ店も成長できないのではないだろうか。

■放送情報
連続テレビ小説『ちむどんどん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
主演:黒島結菜
作:羽原大介
語り:ジョン・カビラ
沖縄ことば指導:藤木勇人
フードコーディネート:吉岡秀治、吉岡知子
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:松田恭典
展開プロデューサー:川口俊介
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
写真提供=NHK

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