『初恋の悪魔』坂元裕二の会話劇はなぜ4人組なのか? ドラマの推進力を生む自宅捜査会議

『初恋の悪魔』坂元裕二脚本はなぜ4人組?

 『カルテット』第1話。別荘に集った4人の最初の食事で、唐揚げにレモンをかけるかをめぐって論争が勃発する。大皿に盛られた唐揚げに、なんの気なしにレモンをかける司(松田龍平)とすずめ(満島ひかり)を諭高(高橋一生)は見とがめる。かける派とかけない派の表層的な対立は、レモンをかけることの不可逆性から共同生活における他者への配慮、ひいては対人関係の距離感を通して4人の個性を浮き彫りにしていく。

 すずめと司につっかかる諭高は、多くの人から「面倒くさい人」とみなされる人間だ。しかし、そこに真紀(松たか子)が加わることである種の均衡が生まれ、集団としての特異性が強調される。2対1が2対2になり、作品のテーマが前景化する。『カルテット』という作品全体を貫く秘密と嘘の四重奏がこの時点で会話劇の中に立ち現われ、真紀の発言は物語後半への布石となる。無造作に見えて精巧に積み上げられた会話が、対立と均衡を経て弁証法的な展開を演出しているのだ。

 話を『初恋の悪魔』に戻すと、馬淵と鹿浜、摘木、小鳥が事件解決を目指す理由はまちまちであるが、4人には警察組織において日陰者であるという共通認識がある。鹿浜が口にする「マーヤーのヴェールを剥ぎ取る」は哲学者ショーペンハウアーに由来するもので、表層的な現実のヴェールを剥がし隠された本質をあらわにする試みでは、自宅捜査会議の会話劇が大きな役割を果たしている。

 会議の開始を宣言する馬淵が捜査の論点を示し、元捜査一課の摘木と数字に強い小鳥がそれぞれの見解を提出する。意見が出そろったところで、古今東西の凶悪犯罪に通じる鹿浜があっと驚く推理でそれらをひっくり返す。模型を使った再現シーンでも4人のセリフ回しは一貫したトーンを保ち、犯人そして被害者の心の機微に触れる。捜査権限のないアンダードッグたちが真実に到達する過程は、警察組織VS犯罪者というありきたりな二項対立を脱構築するものだ。

 8月6日放送の第4話では馬淵と摘木の距離が縮まり、4人の関係性に変化が生まれた。摘木の中には自分でも知らないもう一つの人格である「ヘビ女」がいて、馬淵の兄の死ともかかわりがある様子。『最高の離婚』の淳之介(窪田正孝)や『カルテット』の有朱(吉岡里帆)など、坂元裕二の作品ではメインキャラに次ぐ5人目が重要な役回りを担うことも多いが、それも4人のベースがあればこそ。変化の契機をはらんだ会話劇に注目だ。

参照

※1 『脚本家 坂元裕二』(ギャンビット)

■放送情報
『初恋の悪魔』
日本テレビ系にて、毎週土曜22:00~22:54放送
出演:林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑、佐久間由衣、味方良介、安田顕、田中裕子、伊藤英明、毎熊克哉
脚本:坂元裕二
演出:水田伸生ほか
プロデューサー:次屋尚ほか
チーフプロデューサー:三上絵里子
制作協力:ザ・ワークス
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/hatsukoinoakuma/
公式Twitter:@hatsukoinoakuma
公式Instagram:@hatsukoinoakuma_ntv

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