2パック&ビギー暗殺の真相に迫る 『L.A.コールドケース』は米社会の闇を照らす一作に
そして、作品の中に絡みつくようにして幾度も語られるのがロドニー・キングの事件、そして1992年に起こったロサンゼルス暴動(※英語ではLA Riotsと呼ばれる)だ。1991年、黒人男性のロドニー・キングは、ロサンゼルス市内を走行中、スピード違反容疑により警察によって止められる。その際、キングは逮捕を恐れて逃走するも、警察らによって車から引き摺り下ろされ、激しい暴行を加えられる。その様子を近隣住民が動画で撮影しており、大きなニュースとして取り上げられたのだった。翌年、キングに暴行を加えた警察官らに無罪判決が下されると市内で暴動が起こり、人種間の対立をより際立たせる事態になった。<ポリス・ブルータリティ(警察による暴力)>は、昨今においてもしばしば問題視され、2020年にミネアポリスで起こったジョージ・フロイド事件も記憶に新しい。本編では、折に触れてキング事件を引き合いに出し、「警察は人種差別主義者だと思われている」ことを明らかにしたり、「白人警察が黒人警察を射殺した事件について、事件を複雑にすべきではない」と釘を刺されたりするシーンも登場する。また、夜、車を運転していたジャックが公衆の面前で警察によるハラスメントを受けるシーンもあり、人種にまつわる警察と市民の問題はずっと地続きであることを露骨に描写している点も強烈だ。LAPDという組織において、白人警官と黒人警官が置かれた異なる立場のコントラストも浮き彫りになっている。
明らかな事実であるが、2パックもザ・ノトーリアス・B.I.G.も黒人男性である。プールが目撃者の証言を聞くシーンで、目撃者である若い黒人男性は「普段は黒人が殺されても平気なくせに、なんでこの事件にだけそんなに時間を割くのか? ガース・ブルックス(※国民的人気を誇るカントリー歌手。いうまでもなく白人男性だ)が亡くなったら戒厳令を発令するのか?」と毒づくシーンがあるが、実際に、黒人男性が被害者となるも犯人が特定されぬまま真実は藪の中となってしまった事件は少なくない。
当時、FBIが捜査潜入するほどにマークされていたデス・ロウ・レコーズは、セキュリティとしてLAPDの警察官らを雇い入れ、ロサンゼルスを巻き込んだ大規模な汚職事件を操っていた。その黒幕となっていたのがシュグ・ナイトで、現在、彼は殺人や脅迫などの罪状で28年間の刑期を務めている途中である。「病的なほどに真実が欲しい」と吐露していたプールだが、巨大な組織と都市を巣食う現実の前に、彼は非力であった。ストーリーでは家庭を愛するプールの人間性も魅力的に描かれ、ますます、この事件の結末を呪わずにはいられない。
おそらくこの先もずっと、2パックの生存説はネット上でまことしやかに囁かれ続けるだろう。そういえば、2012年のコーチェラ・フェスではホログラムで再現された2パックがステージに登場し、スヌープ・ドッグやDr.ドレーらと<共演>して話題にもなった。彼もザ・ノトーリアスB.I.G.もヒップホップ史に残るアイコンである。しかし、その背後には未だ解決されぬ事件がもたらした大きな闇が広がったままだ。二人の、そしてプールの名誉のためにも、全てが明らかになる日が来ることを願ってやまない。
参照
※1. https://en.wikipedia.org/wiki/Billboard_Year-End_Hot_100_singles_of_1996
※2. https://www.capitalxtra.com/artists/tupac/news/fans-convinced-rapper-is-still-alive-after-2022-photo-goes-viral/
■公開情報
『L.A.コールドケース』
8月5日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、グランドシネマサンシャイン池袋ほか公開
出演:ジョニー・デップ、フォレスト・ウィテカー、トビー・ハス、デイトン・キャリー
監督:ブラッド・ファーマン
原作:ランドール・サリヴァン『LAbyrinth』
脚本:クリスチャン・コントレラス
提供:木下グループ
配給:キノフィルムズ
2018年/アメリカ・イギリス/英語・スペイン語/112分/カラー/スコープ/5.1ch/G/原題:City of Lies
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