『鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成』役者の演技に納得感 思い出す原作&アニメの熱狂ぶり

 漫画からアニメになり実写となる作品を挙げればきりがない。7月15日公開の実写映画『キングダム2 遙かなる大地へ』が、今まさに進んでいるそうした展開の一例だが、一足早く“完結”を迎えたのが荒川弘の漫画『鋼の錬金術師』(スクウェア・エニックス)だ。2本のTVアニメが作られ映画化もされ、実写映画にもなって5月公開の『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー』、6月公開の『鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成』でストーリーを描き終えた。それぞれに特色があった展開を振り返る。

 2010年6月11日発売の『月刊少年ガンガン』2010年7月号に漫画『鋼の錬金術師』の最終回が掲載され、1カ月経たない7月4日放送の最終話「旅路の涯」でアニメ『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』が最終回を迎えた。ラフの段階で原作者から原稿を見せてもらい、作画に入ったからこそ可能だった漫画とアニメの同時進行。どちらも迫力のアクションと感動の大団円をしっかりと描ききっていた。

 2001年に荒川弘が初めてもらった連載として始めた漫画『鋼の錬金術師』は、ファンタジーやオカルトの分野では知られていた錬金術というものを少年漫画に持ち込み、一種の超能力のような形で描写して、錬金術師たちによるバトルを描いた点が関心を呼んだ。

 強烈なキャラクター描写も特徴で、人体錬成という禁忌に挑んだエルリック兄弟のうち、左足と右腕を失った兄のエドワードは鋼鉄の義手と義足を付けた姿、肉体を失い魂だけが戻って来た弟のアルフォンスは巨大な鎧に魂を定着させた姿で描かれた。

 その兄弟が、肉体を取り戻すための手がかりを探して冒険の旅に出るストーリーは、人間を使った残酷な実験が行われたり、人体錬成の要となる「賢者の石」の非道とも言える秘密が明らかにされたりと、ダークな雰囲気でいっぱい。ただ、小柄なエドや機械鎧整備士のウィンリィといったキャラが愛らしく描かれ、コミカルなシーンも織り交ぜられていて、気を取り直しながら読んでいくことができた。

 すぐに超人気作となったわけではない。5巻くらいまでは1巻あたり15万部ほどだったと、2009年に開かれたイベントで当時のスクウェア・エニックスの出版担当役員だった田口浩司氏が振り返っていた。田口氏は手応えを感じてアニメ化を望んだが、残酷な描写が頻繁に登場する内容に、ためらう声も周囲にはあったという。(※1)

 だが、毎日放送で『機動戦士ガンダムSEED』など数々のアニメ作品を手がけた竹田靑滋プロデューサーが、「痛みを伴う表現が、話の中で必要だと感じて作っているなら、最大限に尊重する」と田口氏を支えた。ボンズのハイクオリティな作画を得て、2003年に作られたTVアニメは大ヒット。1年後の放送終了時には、1巻あたり150万部を売るベストセラーになっていた。

 この2003年版『鋼の錬金術師』があったから、ハガレンは今も人気が続く作品になったと言える。ただ、後に原作をそのまま描く『鋼の錬金術師 FULLMETAL ARCHEMIST』が2008年に登場したこともあって、あまり省みられないところがある。ポルノグラフィティの「メリッサ」や、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの「リライト」といった楽曲とともに動き回るOP映像のハイクオリティさは、今見ても最高にカッコ良い。機会があれば見てもらいたいシリーズだ。

 2009年からの『鋼の錬金術師 FULLMETAL ARCHEMIST』が2003年版と同じボンズの制作となったのも、エドの声を朴ロ美、アルフォンスを釘宮恵理がそのまま引き継いだのも、2003年版の完成度があってのもの。その上で、クライマックスへと向かい話がどんどんと広がっていった原作の面白さもあって、ハガレン人気は究極の領域へと駆け上った。

 迎えた原作の最終回掲載と、アニメの最終話放送は最近の『鬼滅の刃』(集英社)や『進撃の巨人』(集英社)の連載終了に匹敵する世間の話題となった。それから12年。実写版『鋼の錬金術師』の完結が、当時の熱狂の再来とはいかないのは、ずいぶんと時間が経ってしまったこともあるだろう。

 漫画の絵が見た目そのままに動く楽しみがあるアニメ化と違って、実写化には漫画やアニメとの差だったり、長いストーリーを数時間の中にとりまとめなくてはならない制約があったりして、熱烈なファンでも違和感を覚えてしまうところがあるのかもしれない。

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