『パンドラの果実』不可解な事件の悲しい動機 回を追うごとに渦巻く黒い気配

『パンドラの果実』に渦巻く黒い気配

 地球を1mとしたとき、1円玉サイズにあたる1nm。人間の細胞よりはるかに小さく、医療分野、さらには人類の未来にも大きな変革を及ぼすとされるナノマシン。小比類巻(ディーン・フジオカ)や最上(岸井ゆきの)も心躍らせた「科学の光」が、研究者みずからの手によって犯罪に悪用された。『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』(日本テレビ系)第7話で起こった不可解な事件には、悲しい動機があった。

 全身の穴という穴が塞がれ、のっぺらぼう状態の遺体。身元は、国会議員の来栖(ジョーナカムラ)だった。科学犯罪対策室は、来栖の前妻であり、現在はトランスブレインズ社で研究員として働く君塚(板谷由夏)の存在に目をつける。プロフィールには、過去に娘を亡くしていることも記載されていた。

 君塚が研究を進めるナノマシンは、三枝(佐藤隆太)の言葉を借りれば「別次元、圧倒的」だ。トランスブレインズ社に保存された遺体を蘇生させるには、冷凍によって壊れた細胞を修復する必要がある。ナノマシンがいずれ実用化のレベルに至れば、亜美(本仮屋ユイカ)の蘇生もぐっと現実に近付くということだ。

 亡くなった当日、君塚は来栖と会っていた。君塚が、来栖のコーヒーになにかを仕込んだことは監視カメラに記録されており、これがナノマシンであろうことは想像に難くない。まだ研究段階のナノマシンが、来栖を死に至らしめるメカニズムも推察できる。しかし、証拠がない。「科学者だから」確固たる証拠以外は認められないと、動揺したそぶりも見せない君塚に、「科学技術を悪用した人間に、科学者を名乗る資格はない」と、最上は憤る。

 不老不死研究の第一人者であり、ウイルス学者の榊原(加藤雅也)と君塚、小比類巻は、テーブルを囲みながら、生物の進化について意見を交わしていた。榊原によれば、ロブスターは理論上、永遠に生き続けることができる。ではなぜ、世界はロブスターだらけにならないのか? 理由は、より強いものがロブスターを食べてしまうから。たとえ不老不死の力を手に入れたとしても、弱い者は生き残れない。だから「強く進化する必要がある」と、榊原は主張する。不老不死といえば、カーン(安藤政信)も研究者の一人。カーンと旧知の仲だといい、同様に不老不死を語る榊原。彼らは「不老不死」のみならず、そのうえで「より強い進化」を見据えているというのだろうか。

 証拠が見つからないまま、最上はある考えのもと君塚を呼び出した。来栖に埋め込まれた最新型のペースメーカーを切り札に、ハッタリをかけたのだ。小比類巻は、自身もトランスブレインズ社で妻を冷凍保存していると告白し、君塚に語りかける。ナノマシンの研究を知って本当に嬉しかったという言葉には、熱い思いがこもっていた。その瞬間の喜びを回顧するようでありながら、技術が悪用されたことへの悲しみも感じられた。

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