『ハケンアニメ!』は明日への活力をくれる一作 細部まで描かれたアニメへの“本気”
さらに、今作にみなぎるアニメ愛の熱さには、原作の辻村深月がアニメ好きなことも関係しているだろう。辻村は『映画ドラえもん のび太の月面探査記』では、脚本を手がけているほか、自身の小説でも隠さないほどのドラえもん好きであり、アニメ文化に愛のある作家として知られている。
「リア充どもが、現実に彼氏彼女とのデートとセックスに励んでる横で、俺は一生自分が童貞だったらどうしようって不安で夜も眠れない中、数々のアニメキャラでオナニーして青春過ごしてきたんだよ。だけど、ベルダンディーや草薙素子を知ってる俺の人生を不幸だなんて誰にも呼ばせない」(辻村深月『ハケンアニメ』(マガジンハウス刊)より)
アニメが好き、という言葉に対して、どのような印象を受けるかは世代による。今の若い人であれば、“オタク”という言葉に好意的であり、そこに後ろ暗い影はあまり見ないかもしれない。しかし、一定の世代以上にとっては、オタクという言葉は嫌悪されるものだった。そしてその思いを抱えながらも、アニメを愛し続けた人がたくさんいるからこそ、今の盛り上がりにつながっている。
今は配信が全盛の時代となり、アニメの視聴スタイルも大きく変化してきた。いつでも配信で観られるからこそ、リアルタイムの視聴率が作品の人気を測るバロメーターではなくなり、DVDなどのソフトの売上枚数もあまり意味がなくなってしまった。覇権という、人気1位を測るバロメーターも多様化し、Twitterのトレンドランキング、配信サイトの視聴ランキングなどの方が、よりファンの熱の総量を示すかもしれない。
だが、時代は変わり、覇権という言葉が薄れ、制作手法が変わったとしても、制作者の熱意は決して変わらない。その思いは徐々に多くの人に伝わり、ファンが受け取り、そして一般の人たちへも波及していく。もちろん、覇権ではないアニメにだって、その熱量は同じく込められている。制作現場の体制や、賃金などで様々な問題が叫ばれていても、1ファンとしては、そこに情熱を注ぐクリエイターたちを、全力で応援したい。『ハケンアニメ!』は誰かの好きが伝播し、情熱としてこころにささり、明日の活力となる、そんな作品だ。
■公開情報
『ハケンアニメ!』
全国公開中
出演:吉岡里帆、中村倫也、工藤阿須加、小野花梨、高野麻里佳、六角精児、柄本佑、尾野真千子
原作:辻村深月『ハケンアニメ!』(マガジンハウス刊)
監督:吉野耕平
脚本:政池洋佑
音楽:池頼広
主題歌:ジェニーハイ「エクレール」(unBORDE / WARNER MUSIC JAPAN)
制作プロダクション:東映東京撮影所
配給:東映
(c)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
公式サイト:haken-anime.jp