国仲涼子『ちゅらさん』の“真正直”パワーは今こそ必要! 総集編放送に寄せて

『ちゅらさん』の真正直パワーは今こそ必要

 えりぃが東京で住まうことになる一風館の住人で、“ボケ”のえりぃのツッコミ役を担う真理亜(菅野美穂)がこの「パラレルワールド」と視聴者の橋渡し的存在となっている。真正直・ド直球のえりぃは、しょっちゅう真理亜に「あんたバカ?」とツッコミを入られる。筆者の記憶が正しければ、えりぃは朝ドラ史上最も多く「バカ」と言われたヒロインではないだろうか。真理亜は「小学生のときに初恋の相手と交わした結婚の約束を信じ続けるなんてバカげてる」と言う。ところが、しだいにえりぃのペースに巻き込まれ、魅かれて、やがてえりぃと文也の物語を童話化した『ガジュマルの樹の下で』を執筆するまでに至る。

 冷笑的なリアリストの真理亜、一風館の孤独な老人・島田(北村和夫)、そしてえりぃが看護師になって出会う患者たちが、彼女と接していくうちに心を解されていく。この過程が、このドラマにハマった視聴者の体感とシンクロしていたのではないだろうか。「こんな時代」に心が冷えてしまったかもしれないけれど、バカ正直で、バカ一生懸命で、バカひたむきなヒロインが奔走する姿に巻き込まれて、身を委ねてみるのもいいじゃないか。『ちゅらさん』には、そう思わせてしまう謎のパワーがあった。

 えりぃと並んで、現代人が忘れてしまった「真心」のようなものを体現していたのが、えりぃのおばぁ・ハナだ。ドラマで「年寄りが何かいいことを言う」というシーンはベタすぎる、あるいは説教臭さを感じてしまいがちなのだけれど、平良とみのあのしなやかで愛嬌のある沖縄ことばで語りかけられると、どうしても聞き入ってしまう。彼女の存在自体に、戦後の沖縄を生き抜いてきた人々の強さが表出していたからだろう。おばぁと、一風館の管理人・みづえ(丹阿弥谷津子)が語り合う、このドラマの中で唯一戦争に言及したシーンは圧巻だ。

 あれから21年の時を経て、今、またしても「こんな時代」に突入してしまった。プロローグで早逝した文也の兄・和也(遠藤雄弥)が、えりぃと文也に「命のバトン」を授けて始まるこの物語。おばぁがが繰り返し説く「命(ぬち)どぅ宝」(この世で何よりも大事なものは命)という教えが、最終週の週タイトルとなっている。このメッセージが、改めて沁みる。

 2022年春から、同じく沖縄が舞台の朝ドラ『ちむどんどん』が放送中だ。『ちゅらさん』では描かれることのなかった「沖縄」が、今後『ちむどんどん』でどのように描かれるのか、期待したいところだ。総集編放送を機に、この2作を比較して視聴してみるのも一興かもしれない。

■放送情報
『ちゅらさん』総集編
NHK総合にて放送
5月3日(火)10:00〜11:54
5月4日(水)10:00〜11:54
5月5日(木)10:00〜11:54
出演:国仲涼子、小橋賢児、平良とみ、ゴリ、山田孝之、丹阿弥谷津子、余貴美子、村田雄浩、菅野美穂、北村和夫、真野響子、佐藤藍子、勝野洋、田中好子、堺正章ほか
脚本: 岡田惠和
音楽:丸山和範
主題歌:Kiroro「Best Friend(ベストフレンド)」
語り:平良とみ
写真提供=NHK

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