『ミューン 月の守護者の伝説』子供も大人も魅了するハイブリッドな現代的アニメーション

現代的アニメーション『ミューン』

3Dと2Dを駆使したハイブリッドアニメーション

 本作の映像は、基本的に3DCGアニメーションで制作されている。昼と夜が同居する不思議な世界は、幻想的で美しくデザインされ、単純なフォトリアルな作風とは一線を画しており、アニメーションならではの自由な発想が満載だ。

 美術のスタイルとしてはフォービズムを意識したそうで、目に写る現実的な色彩感覚よりも心が感じる印象を重んじているあたり、フランスらしい作風と言える。昨年、日本で公開されたフランスのアニメーション映画『カラミティ』も、フォービズム的な色彩感覚で作られていたが、この辺りの美的感覚は、アメリカの3DCGアニメーションとも、日本のアニメとも異なりフランスの美術伝統が生きていると言えるだろう。

 そして、本作は3Dだけでなく、手描きの2Dパートも存在する。回想や夢の世界のシーンで、キャラクターも波形も手描きの2Dアニメーションに変わるのだが、この作画も実に躍動感に満ちている。3D以上に縦横無尽にキャラクターが動き回り、形状が変化していくそれらのシーンは、古き良きカートゥーンアニメーションを思わせる。作中全体で非常に効果的なアクセントになっており、強い印象を残す。

 本作の監督の1人、アレクサンドル・エボヤンは、ドリームワークス・アニメーションの3DCG作品『カンフー・パンダ』とフランス・アニメーションの巨匠ミッシェル・オスロ監督の作品にも参加したことがあり、ハイレベルな娯楽を志向したドリームワークスと芸術性に富んだオスロという対照的な両者から、バランスよく影響を受けているのだろう、本作は美しさと楽しさが見事にブレンドされている。さらには、宮崎駿からも影響を受けたとも本人は語っており、様々な方向性のアニメーションを統合したハイブリッドな現代的アニメーションなのだ。

 抒情性に富み、娯楽性も存分に含んだ本作は、大人の心も、子供たちの心も捉える強い力のある作品だ。ゴールデンウィークに家族で楽しむために最適な一本と言えるだろう。

参照

監督コメントは後日掲載予定の筆者インタビューより

■公開情報
『ミューン 月の守護者の伝説』
4月19日(火)〜5月8日(日)まで、東京都写真美術館ホールにてGW先行公開
5月20日(金)より、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開
監督:アレクサンドル・エボヤン、ブノワ・フィリポン
音楽:ブリュノ・クレ
提供:リスキット、ホリプロインターナショナル、キャトルステラ
配給:リスキット
2014年/フランス/フランス語・英語・日本語/シネマスコープ/85分
(c)ONYX FILMS-ORANGE STUDIO-KINOLOGY
公式サイト:mune-movie.com

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