『ミューン 月の守護者の伝説』子供も大人も魅了するハイブリッドな現代的アニメーション

現代的アニメーション『ミューン』

 近年、アメリカと日本以外の様々な国で制作されたアニメーション映画を観られる機会が国内でも増えてきた。2022年も『シチリアを征服したクマ王国の物語』や『アンネ・フランクと旅する日記』といった秀作がすでに公開されているが、日米の見慣れた作風のアニメーションとは異なる輝きを放ち、世界の今のアニメーション産業の多彩さを教えてくれる。

 4月19日から先行公開される『ミューン 月の守護者の伝説』もそんな世界のアニメーション作品の豊かさを伝えてくれる作品だ。華やかさと美しさが同居したこのフランス製アニメーション映画は、波乱万丈の冒険譚と可愛いキャラクターで子供をおおいに喜ばせるだろうし、同時にそのユニークな世界観と美しい美術によって大人をも魅了する。日米のアニメーションにも大きな影響を受けつつも、フランス独自の異彩を放つ作品だ。

太陽と月が管理された独創的な世界

 本作の世界観はとびきり独創的だ。この世界では太陽と月は守護者と呼ばれる存在に管理されている。太陽と月は、鎖や紐で結ばれていて、神殿と呼ばれる大きな生き物に曳航されて進み、世界に昼と夜をもたらしているのだ。

 こうした世界観について監督の1人ブノワ・フィリポンは「子供はシンプルな想像力で、月や太陽など見たものを何でも手に取ろうとする」ところから発想したそうだ。同時に、管理者がいて厳格に運用されているという点は、「太陽や月はもしかして儚い存在かもしれないで、誰かが守る必要がある」ものだという発想なのだそうだ。この作品世界では、月も太陽も、常に無条件に存在する天の恵みではなく、自分たちで守っていくべきものだとされているのだ。

 主人公ミューンは、半ばアクシデントのような形で月の守護者に任命されてしまう。彼は、引っ込み思案で自分に自信が持てず、そのような大役が務まるはずがないと考えているが、持ち前の機転と勇気で自らの使命に目覚めていく。

 対して、太陽の守護者に選ばれたソホーンは筋骨隆々で自信家だが、短絡思考なところがある。だが、彼もまた自己の欠点を顧みて、冒険の末に成長していく。

 そんな対照的な2人の守護者と冒険をともにするのが、身体がロウで出来た女の子グリムだ。彼女は昼の熱さの中では身体が溶けてしまうが、夜の寒さでは固まって動けなくなってしまう。昼と夜の中間の黄昏時にしか行動できない彼女だが、それゆえにミューンとソホーンの間に立って2人の関係を取り結ぶことができる。

 物語は、冥界に封印されたかつての太陽の守護者ネクロスに盗まれた太陽を取り戻すため、ミューンたちが艱難辛苦の冒険を繰り広げるというものだ。未熟な少年少女たちが、冒険の旅の末に成長し、帰還する。王道の神話的構造を持った通過儀礼を描いている。

 3人はそれぞれに欠点を抱え、だれ一人として自分だけで物事を解決してゆくことができない。ミューンは責任感に目覚めておらず、月を手ばしてしまうし、ソホーンは注意不足で太陽を奪われる。グリムは2人の力を借りねば外で行動することも難しい。だが、そんな3人が力を合わせることで、世界の危機を解決してゆくのだ。

 こうした世界観とキャラクターたちの行動を通じて、本作は教訓じみたメッセージを伝えるわけではない。だが、この物語は結果として、子供たちに未知の世界に飛び込むことの大切さや、責任感、自分と異なるパーソナリティを持った存在と協力することの大切さを自然と学ぶことになるだろう。人は、誰もが何かが欠けているかもしれないが、互いに協力することで大きな力を発揮するものなのだ。

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