『ダンブルドアの秘密』であらわになった、『ファンタビ』シリーズに内在していた問題
といっても、「ダンブルドアの秘密」というタイトルがついているように、本作はアルバス・ダンブルドア(ジュード・ロウ)とグリンデルバルドとの関係や、その家系についての謎がメインとして描かれていて、主役であるはずのニュートの存在感は前作に引き続いて弱いままである。さらに、魔法使い連盟の代表が、この時代のドイツで活動し、差別による分断を進めるグリンデルバルドと裏で繋がっているという設定が、ナチスの台頭をイメージさせ、さらにそれが現代の選挙におけるポピュリズムへの警鐘にもなっているように、政治的なメッセージも依然として強い。ということは、ローリング単独の脚本であれば、やはりもっと極端な内容になっていたのではないかと思えるのだ。
ローリングの関心が政治に傾いているにもかかわらず、当初の本題であったはずのニュートと魔法動物との物語に時間を割かざるを得ないことで、本シリーズはある意味でいびつなものになっているように思える。そもそも、魔法生物学者が命を賭して大規模な政治的陰謀と対峙し続ける展開に、少々無理があるのである。そこで本作では、グリンデルバルドの邪悪な計画に、中国の想像上の動物「麒麟(きりん)」を絡めるという筋立てを用意している。しかし、この試みによって魔法動物の描写が、政治的な描写に従属する役割を担ってしまい、当初の比重が転倒していることを、むしろより意識させてしまうのではないだろうか。
そう考えると、ローリングが単独で書いた前2作における、ある種のバランスの悪さというのは必然的なものだったのではないだろうか。娯楽映画という枠で見れば、映画の脚本を書き慣れていない作家ならではのたどたどしさを感じてしまうところだが、娯楽映画ならではの魅力を優先させようとしているように感じさせる本作の試みは、とくにバランスの悪さゆえにローリングの熱意をいままでになく感じた前作に比べると、どうしても平凡でインパクトに欠ける仕上がりに繋がってしまったように感じられるのである。
そもそも、5作もあるシリーズのなかで、1作1作全てが行儀良くまとまったものである必要があるだろうか。せっかくローリングが書いているのだから、並の脚本家には書けない、ときに娯楽映画の枠をぶち壊すような物語を期待してはいけないのだろうか。その片鱗が前作で何度も見え隠れしていただけに、本作が想像の枠に収まるものになってしまったことは残念な部分である。
とはいえ、本作でグリンデルバルドが、国際魔法使い連盟の次期代表選に出馬して人気を得ていくという政治的な展開は、相変わらず興味深いところだ。前作では偏見による分断を煽っていたグリンデルバルドだが、だからこそマグル(人間)を差別する魔法使いたちから熱狂的な支持を得るという構図は、イギリスのEU離脱における国民投票や、ドナルド・トランプが当選した、アメリカの大統領選を背景にしていることは明白である。ちなみにローリングは、トランプ氏や、その陣営への怒りを、幾度となく自身の言葉で表明している。
グリンデルバルドの最終的な狙いは、マグルとの戦争である。どこからどう見ても破滅や暴力を運ぶ人物に違いないのに、それでも彼は自分が正しい道を歩み、美しい心を持っていると、しらじらしくもアピールする。ローリングが表現したかったのは、この「無理でも言い張れば言い張れてしまう」という狂った状況であろう。そしてメディアが利用され、そういう人物に民衆が苦もなくコントロールされるおそれがあるという懸念であったはずだ。それは日本をも含めた、現代の普遍的な問題である。本作ではそこに最も、ローリングの熱意や、人間性がこめられているといえるのではないか。
シリーズが滞りなく、残り2作品を製作したとして、気になるのは物語の行方である。第2作『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』では、世界を覆い尽くすような不穏な状況を作り、本作へと繋げたが、その多くの問題を本作は解決してしまった。あたかもシリーズが最初から3部構成であったかのように感じられるほどだ。それは逆にいえば、次の作品ではこれまでの状況に縛られずに、新たな物語を表現することができるということだ。さらに数年後を舞台に、第二次世界大戦を背景にした、対立する陣営同士の大規模な魔法戦争が勃発することもあり得るし、逆に世界の危機の鍵を握る魔法動物をめぐる冒険が描かれるかもしれない。いずれにせよ、その構想はJ・K・ローリングの創造性にまかされるべきだろう。
■公開情報
『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』
全国公開中
監督:デヴィッド・イェーツ
脚本:J・K・ローリング
プロデューサー:デヴィッド・ヘイマン
出演:エディ・レッドメイン、ジュード・ロウ、エズラ・ミラー、ダン・フォグラー、アリソン・スドル、カラム・ターナー、ジェシカ・ウィリアムズ、キャサリン・ウォーターストン、マッツ・ミケルセンほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
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