『ダンブルドアの秘密』であらわになった、『ファンタビ』シリーズに内在していた問題

 J・K・ローリングがオリジナル脚本を務める、『ハリー・ポッター』シリーズの作品世界を共有した映画『ファンタスティック・ビースト』シリーズ。その予定されている5部作のうちの3作目『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』が公開された。

 根強い人気で興行成績を維持している大作シリーズだが、近年、作品外で関係者による数々のトラブルに見舞われたことで騒がれる事態ともなっている。思わぬ問題が噴出しているように、本作『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』は、シリーズに内在していた問題もまた、あらわになった作品だといえるのではないか。ここでは、本作の内容や背景を振り返りながら、その点について考えていきたい。

 まず触れなければならないのは、前2作で邪悪な魔法使いグリンデルバルドを演じたジョニー・デップが、降板を余儀なくされたことだ。この出来事は、デップの元妻アンバー・ハードが、デップからDVを受けていたという話を、イギリスのタブロイド誌が掲載したことが発端となっている。その後、デップは事実無根だとして出版社を名誉毀損で訴えたものの、裁判所は暴力があったという判決を下すこととなった。デップはいまもって潔白を主張しているが、作品のイメージダウンを防ぐため、最終的にワーナーは降板という措置に踏み切ったとったとみられている。

 さらには、本シリーズの核となるJ・K・ローリングもまた、トランスジェンダーに対する偏見を煽るとされる言動を繰り返し、多方面から批判を浴びている。『ハリー・ポッター』シリーズのメインキャストであるダニエル・ラドクリフ、エマ・ワトソン、ルパート・グリント、そして本シリーズの主演俳優エディ・レッドメインまでもが、ローリングが発信し続けている意見に対して賛同しないことを表明したものの、依然としてローリングは強硬な態度を貫いている。さらなる批判が巻き起こっている状況だが、レッドメインは、批判を超えた誹謗中傷に対しては自制を呼びかけている。

 これだけではない。第1作より出演し続けているクリーデンス役のエズラ・ミラーが、本作公開前にハワイで迷惑行為をはたらき逮捕されてしまったことで、またしても作品外の負の面でシリーズが注目されることに……。とはいえ、映画会社がこれらのトラブルについて具体的な対応をしたのは、現時点でジョニー・デップの降板のみである。

 本作で新たにグリンデルバルドを演じることになったのは、マッツ・ミケルセンだ。俳優として全くタイプの異なるミケルセンは、デップの役柄へのアプローチは彼だけのものだとして、自分なりの解釈でグリンデルバルドを表現したようだ。デップがロックスターのようなインパクトあるカリスマを発揮した前作に比べると、かなり落ち着いた渋いキャラクターになったように感じられる。だが、それはそれで恐いのが面白い。

 第1作『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』では、魔法生物学者ニュート・スキャマンダー(エディ・レッドメイン)による、希少な魔法動物たちとの触れ合いや冒険が物語の主軸となっていて、そこにローリングの政治的な主張が織り込まれているという内容だった。本シリーズは、1920年代〜30年代を舞台としているように、この後の第二次世界大戦を予感させる、“人間界”の緊迫した世界情勢を“魔法界”にも反映したものとなっている。第2作『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』は、一気に政治性を増し、ダークな要素が非常に強い作品となった。これは、ローリング自身の興味が政治的な方向に強く寄ったことを示していると考えられる。

 そのように考えると、このほど『ファンタビ』シリーズとして初めて、ローリングが単独で脚本を手がけるのでなく、『ハリー・ポッター』の映画シリーズほとんどの脚本を担当してきたスティーヴ・クローヴスが共同で執筆している事実は、おそらくダークな政治路線に寄っているローリング脚本の方向性を製作側が緩和させようとする意図があったのではないかと類推できる。

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