向井理、コメディ俳優としての強みを得て新たな黄金期へ 演技に加わった“人間味”

向井理、役者として新たな黄金期へ

 俳優の中には、年をとればとるほど魅力的になる人もいる。向井理は、まさにそのひとりではないだろうか。

 現在公開中の映画『ウェディング・ハイ』では後半のキーパーソンとなる役を妙演。出番は決して多くないが、岩田剛典とのくだりは劇中でも最大級の笑いのポイント。実力十分の個性派俳優たちをなぎ倒し、最終的にこの2人がすべて持っていったようなインパクトがある。これも、向井理の持つパブリックイメージとのギャップが生んだ笑いだろう。

 最近の向井理はコメディにも強いところを見せている。その片鱗を示したのが、昨年放送された『バイプレイヤーズ~名脇役の森の100日間~』(テレビ東京系)だ。周囲の出演者が次々とバズる中、主役なのにまったくバズらない主演俳優役を演じ、その悲哀が笑いを誘った。壁に向かってひたすら決め台詞を練習したり、「理科の理と書いておさむちゃんでーす」と叫んだり。これまでのイメージを打ち破る振り切った演技は大きな反響を呼んだ。

 このコメディ力は、この冬放送の『婚活探偵』(BSテレ東)でも炸裂。ハードボイルドに憧れているくせに、こっそり婚活相談所に通う恋愛経験ほぼゼロの男がこれほど似合うのは、そんなイメージがかけらもない向井理だから。いつもより低い声で渋く決めながら、女性のこととなるとすぐうろたえる敏腕探偵をどこまでも真面目に演じ切った。

 この3作に見る向井理のコメディ俳優としての強みは2点。まずはイメージとのギャップだ。見とれるほどのスタイルと、明治大学農学部生命科学科卒というバックボーンから、向井理は知性派のスマートな俳優というイメージが定着している。こうした二枚目キャラクターは、時として役を狭める枷にもなりかねない。向井理自身も、少し前まではこうしたパーフェクトすぎるイメージがハンデになっていたように思う。けれど、そのイメージを逆手に取ることで、「容姿端麗・頭脳明晰な向井理がやるから面白い」というある種の“チート設定”をつくり出した。『ウェディング・ハイ』はまさにその好例だろう。

 そしてもう1つのコメディ俳優としての強みは、どこまでも真面目にやるということだ。コミカルな役を振られたとき、往々にして面白おかしく演じたくなるのが俳優の性(さが)。だが、コメディを演じるときの向井理にそんな独り善がりな欲はない。ウケようという功名心は封じ、台本に書かれていることを丁寧にやるだけ。それが、コメディ俳優・向井理の基本姿勢。

 『バイプレイヤーズ』でバズりたいあまりに先輩俳優の前で土下座、もとい土下寝するのが無性に笑えるのもあくまで本人は真面目だからだし、『婚活探偵』で胸の大きいデート相手に「(胸が)大きいのが好きなのは事実です」と口走ってしまっても許せるのは、真面目さゆえにこぼれた本音だから。真面目なばかりにドツボにハマる。それを、余計な作為は入れず、ただ真面目に演じる。だから、向井理のコメディは鼻につくようないやらしさがないし、安心して笑えるのだと思う。

 思わぬコメディ適性を発揮したことにより、もともと得意だった二枚目役にも豊かさが出てきた。そもそも第2次向井理ブームの火付け役となったのが、2019年放送の『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)。ここで仕事はできるけど、ほどよく力が抜けている上司・種田役を魅力たっぷりに演じ、「やっぱり向井理はカッコいい」という再評価の声が爆発。さらに『着飾る恋には理由があって』(TBS系)でも同じように優秀だけど、どこか少年のようでほっておけないベンチャー社長・葉山役で視聴者の心を鷲掴みにした。

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