『妻、小学生になる。』最終話、家族が過ごした最後の1日 「またどこかで」を心の支えに
貴恵の変わらぬ愛情深さに心が締め付けられる一方で、変わったのは圭介と麻衣のほうだった。圭介は貴恵がいつか話していた「自分で育てた野菜を使って料理を振る舞うお店がしたい」という夢を実現しようと思い立つ。自宅を即席レストランにしてゆかりのある人たちを招待し、麻衣と共にお店のように切り盛りして最高の1日を演出したのだった。
以前の2人だったら、貴恵との別れを惜しんで涙を流す1日を過ごしたかもしれない。でも、今の2人は貴恵に1分でも1秒でも笑って過ごしてほしいと願い、動く。冒頭で“夢のような時間”と表現したのは、むしろ貴恵を見送る側にとって「してもらうばかりで、何もしてあげられなかった」という思いを昇華できた時間だったからだ。
それは圭介と麻衣のみならず、結果として貴恵に子育てをやり直す機会をもらうことができた万理華の母・千嘉(吉田羊)も含めて。万理華の顔を見て、すぐに貴恵の魂が入っていることに気づけたのも、大きな変化を象徴していた。
なかでも、万理華の体で新島家に向かう貴恵を思わず抱きしめて告げた「いってらっしゃい」。それは不器用な千嘉にとって、精いっぱい感謝の気持ちを伝えたかのように見えた。貴恵に救われるばかりではなく、最後にその背中を押すことで「何もお返しができなかった」と悔やんだ千嘉の心も整理できたのではないだろうか。
また貴恵の弟・友利(神木隆之介)は、すでに9話で“姉に読ませたい”作品としてリベンジ漫画を描き上げたことが、最大の恩返しになっていたように思う。出版社で監禁状態になっているのもまた漫画家として求められていればこそ。そして、貴恵もそんなふうに走り始めた友利にとっては、最後の挨拶なんて足止めをさせないほうがいいと思っての別れの形だったようにも見えた。
この満たされた1日が、永遠に続けばいい。覚めることのない夢ならば、その永遠が叶うかもしれない。そんな貴恵の心情を「さよなら」の代わりに告げた「おやすみ」から感じることができた。それは「こんなふうに死を迎えることができたら」と、そして「大切な人を見送ることができたら」と、いつかお迎えが来るすべての人に向けて夢を見せてくれるようなラスト。
「ご縁があったら、またどこかでね」。寺カフェのマスター(柳家喬太郎)の言葉を借りるなら、現世ですべてをどうにかしようなんて欲深い話なのかもしれない。いつかまた縁があれば、どんな形でもまた会えるはず。それがこの世ではなかったとしても、だ。
みんないつかはお迎えが来る身。絶望に打ちひしがれて過ごすよりも、そんな「またどこかで」を心の支えにして生きていこう。そんな温かな日の光が差し込むようなドラマが終わってしまうのもまた寂しい限り。だが、そんなときこそ心のおまじない「ご縁があったら、またどこかでね」を胸に……。
■配信情報
『妻、小学生になる。』
TVer、Paraviにて配信中
出演:堤真一、石田ゆり子、蒔田彩珠、森田望智、毎田暖乃、柳家喬太郎、飯塚悟志(東京03)、馬場徹、田中俊介、水谷果穂、杉野遥亮、小椋梨央、神木隆之介、吉田羊
原作:村田椰融『妻、小学生になる。』(芳文社『週刊漫画 TIMES』連載中)
脚本:大島里美
プロデュース: 中井芳彦、益田千愛
演出:坪井敏雄、山本剛義、大内舞子、加藤尚樹
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/tsuma_sho_tbs/
公式Twitter:@tsumasho_TBS