成海璃子×小川紗良『湯あがりスケッチ』“2つの世界”が描かれた異色回

『湯あがりスケッチ』“2つの世界”の異色回

 夏目漱石『草枕』の終盤に、電車に乗って「行く人と、送る人の距離」が、車掌に戸をぴしゃりとしめられることによって隔てられ、切れかけていた因果は完全に断たれ、「世界はもう二つに為った」という一節がある。

 『湯あがりスケッチ』(ひかりTVにて毎週木曜日配信中)第7話は、そんな、複数の「2つの世界」を見つめるかのような、異色の回だ。彼女たちは見つめる。自分が見ている/見られている世界を。自分によく似ているようで、少し違う、もう1人の誰かを。もしくは、今見ている光景によく似た、かつての光景を。そこにいた/いる人々を。何十年もそこにあって、でもこの先永遠に続くわけではないかもしれないその光景は、力強い一方で、哀愁も漂わせる。カメラが世界を映しだし、私たち視聴者がそれを目の当たりにした時、成海璃子演じる編集者・新浪灯子のモノローグによる『草枕』冒頭の言葉を借りれば、「詩が生れて、画が出来る」のである。

 第7話の冒頭、本作のメイン銭湯である北千住「タカラ湯」に繋がる道を、見慣れない男が歩いている。その名も天野ジェイド太晴(小林竜樹)。タカラ湯の主人・愛之助(村上淳)に「おめでとうございます! 今日であなたが50人目!」と謎の歓迎をされてもどこ吹く風、番台の穂波(小川紗良)に「Good afternoon!」とご機嫌で話しかける。彼は、何やら「元・ライバル」熊谷(森崎ウィン)に用事があるらしい。風のように現れ、消えた男は、今後、物語に何らかの新しい風を吹き込むのだろう。

 回を重ねるにつれて演者の自由度が増しているように見える、愛おしい「タカラ湯」パートも今回は少しだけの登場。第7話は、板橋にある歴史ある宮造り銭湯・稲荷湯を舞台に、似た者同士の同世代、番頭でありイラストレーターの穂波と、編集者の灯子の出会いを描いた回だった。

 灯子は、いつも本に囲まれている。大学生の頃からそうだった。当時は図書館、今は一人暮らしの部屋の中を本だらけにしている。マーラーの交響曲第五番を聴きながら。「ずっと一人が好きだった。言葉だけが、私の友達だった」と彼女は言う。路地を歩く様子も興味深い。コッペパンの宣伝のポスターを見つめていた灯子は、次の場面で、そのコッペパンを食べながら、人々と共に、路上で弾き語りをする男を見つめている。するとおかしな現象が起こる。カメラに導かれるまま聴衆たちを目で追っていると、そこに、本来なら弾き語りをしているはずの男がいるのである。そして、彼らが聴き入る音楽を奏でているのは、他ならぬ灯子なのだ。

 彼女の目を通すと、世界は時々違う姿を見せる。穂波の取材の立ち合いのため、稲荷湯を訪ねた灯子。取材中、90年以上の歴史がある、男湯も女湯も一望できる番台に座らせてもらう。そこで彼女は見る。はるか昔の銭湯の光景を。そこにいた人々の姿を。続いて、店主(濱田マリ)と灯子の会話はそのままに、流れるように場面が変わり、今度は灯子が湯船に浸かり、窓には番台に座る店主の佇まいが映るという、本来あるべき姿に世界は戻っている。そしてそこには、先ほどとは違い、現代の銭湯の光景が広がっていた。そして灯子の隣には、穂波がいる。

 その後の穂波と灯子の会話は興味深かった。穂波は「そこにいる人とか、そこに人がいた気配とか、それを含めて銭湯」なのではないかと言う。「私も一人が好きだけど、銭湯って、一人でいて、一人じゃない」。それが「私が銭湯で働く理由」なのだと。

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