『THE BATMAN-ザ・バットマン-』は何を描こうとしたのか? 90年代的思想などから考察

『ザ・バットマン』を徹底解説

 「自分探しの旅」などと言うと、近頃では揶揄の対象になることもあるが、実際に自分の目で世界の実態を見て、その場所で自分ができることを考えることで、本来進むべき道を見出した実例はあるのだ。ブルース・ウェインもまた、災害に遭った人々に、いま自分ができる精一杯の力で手助けをすることで、ヒーローとしての自分を発見することができたのである。現代においてアメリカの裕福な白人であることは、ある意味では一種の呪いであるといえるかもしれない。だが、そうであったとしても、その上で自分がやれることを考えて、少しでも善き人間であろうとすることが大事なのではないか。

 バットマンは、この3時間にも及ぶ大作の最後の最後で、ついにリドラーの投げかけた問題に対し、彼の想定する“解答”を乗り越える正解に辿り着いた。さらには自分のなかで障害となっていた「サムシング」を取り除くことができたといえるのではないだろうか。その答えは同時に、“自己を探究する”という90年代的なテーマの、一つの“解答”だったともいえるはずだ。

 自分のことばかりを考えるのでなく、他人や世の中のことを思うことで、逆に自分自身のあるべき姿、やるべきことが明確になってゆく……。その思想が求められるのは、70年代、90年代ばかりではないだろう。本作でバットマンが七転八倒し、絶望に突き落とされながら到達した境地は、現在の世界の国々に共通する、ドメスティックになっていく社会が生む諸問題や、現在のアメリカ社会の分断を解決するための、まさに“鍵”となる考え方だと思えるのである。

■公開情報
『THE BATMAN-ザ・バットマン-』
全国公開中
監督:マット・リーヴス
脚本:マット・リーヴス、マットソン・トムリン
出演:ロバート・パティンソン、コリン・ファレル、ポール・ダノ、ゾーイ・クラヴィッツ、ジョン・タトゥーロ、アンディ・サーキス、ジェフリー・ライトほか
配給:ワーナー・ブラザース
(c)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (c)DC
公式サイト:thebatman-movie.jp

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