“女の友情”はなぜ続かない? 『39歳』から考える、女性の一生と孤独との闘い

友情ありきで描かれる恋模様

 特に施設で育ち、実の家族を知らないミジョにとって、この2人との友情関係は家族にも勝る強い絆がある。思い切り泣ける場所、帰ってくる場所、本当の自分でいていい場所。血の繋がりもない、書類上の繋がりもない、けれど誰よりも「家族」と呼びたくなる存在なのだ。

「29歳のとき一番好きだったものは?」

 そうミジョが尋ねられるシーンがある。それはミジョに想いを寄せるキム・ソヌ(ヨン・ウジン)が妹への誕生日プレゼントについて相談しているときのこと。好きなブランドやハマっていたモノなどが答えとして返ってくるかと思いきや、ミジョの口から出てきたのは「友達」だった。

 ミジョという人を構成する要素に、チャニョン、ジュヒの友情がどれほど大きな割合を占めているのかが伺える場面だ。恋人に求める条件は人それぞれにあると思うが、ミジョにとってはこの友情への理解があるかどうかが最重要項目なのだろう。どんなに愛の言葉を並べても落ちそうになかったミジョの心を射止めたのは、ソヌのチャニョンやジュヒへの理解が深まってきたからだ。

 「ラブコメ」を中心に、どうしてもドラマにおける女性の友情は恋を応援するポジションになりがち。もちろん本作でもそれぞれの恋愛をサポートしていく姿が描かれるものの、3人の友情の方がウェイトが圧倒的に高い。それは「会社を辞めてきた」と電話が入れば、恋人とのキャンプの道すがらも引き返すほど。

 それも彼女たちにとってこの友情は、今後どんなに頑張っても手に入らない宝物だと知っているから。お互いの恋の終わりは幾度となく見てきても、この友情の終わりはありえない。極論を言えば、恋人はまた新しく出会えるかもしれないが、これ以上の友達にはもう二度と出会えないという確信があるのだ。

 友情があってこその恋愛。恋人にだけ見せる顔があれば、友達にしか見せない顔もある。3人はそんな自分たちの友情に信念を抱き、多くの知人がSNSでつぶやくような選択とは異なる選択をしたときにも、打ちひしがれそうな孤独と立ち向かってきたのだ。

それでも抗えないのが、“死”の別れ

 そんないくつもの人生の転機が訪れても決して手放さなかった友情だからこそ、3人に迫りくる“死”という絶対的な別れが重く苦しくのしかかる。もちろん、私たちは不老不死ではない。だが、時間が巻き戻るかのような感覚になる友人との時間が、いつか必ず終わるなんて考えたくないもの。

 「まだまだ先のこと」と考えないようにしたいことが、人生にはたくさんある。たしかに30代の後半ともなれば、ぼんやりと「健康診断をしなければ」「保険を見直さなければ」なんてことはよぎるものの、その「いざ」という日がすぐに来るとは思えない。でも、彼女たちには、それがある日突然訪れてしまった。

 誰よりも大事に想ってきた友達の死を、どのように受け止めればいいのだろうか。唯一無二の人を失う孤独感を、大事な人を残して旅立たなければならない孤独感を、見送る側と逝く側に分断されてしまった孤独感を……、どうやって立ち向かえばいいのだろうか。

 抱えきれない思いは涙となって溢れ、自分なんてどうなってもいいとさえ思うほどに荒れ狂い、それでも最後には「友情があってこその人生だ」と立ち戻ってくるしかなかったミジョ。そして「この地球上で歴史上で一番楽しく旅立つのよ。最高のラストを飾ろう」と、“その日”が来るまで、精いっぱいできる限りの楽しい思い出を作ろうと決心するのだ。

 結局、私たちが孤独に打ち勝つ方法は、その一瞬一瞬の喜びを積み上げることでしか埋めることでしかないのかもしれない。美しい音楽が心地よく通り過ぎるかのように、その瞬間の思い出を反芻することで心を温めて生きていくしかない。

 そして、この物語でいう“その日”は私たちにとっても、決して遠い遠い日のことではないということ。この世界は、いつ何が起こるのかわからない。圧倒的な孤独感に苛まれる出来事が突然舞い込んでくるかもしれない。その苦しさから少しでも誰かを、そして自分自身を守るために。ミジョがどんな生き様を見せてくれるのか。39歳から見つめる、女の一生の受け止め方。じっくりと一緒に考えていきたいドラマだ。

■配信情報
『39歳』
Netflixにて独占配信中
(写真はJTBC公式サイトより)

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