日本のドラマ・映画はどこに進むのか 成馬零一×西森路代が語り合う、コロナ禍で起きた変化

成馬零一×西森路代、特別対談

多層化している物語

ーー濱口監督の2作品『ドライブ・マイ・カー』『偶然と想像』が象徴的ですが、作り手たちの教養力がにじみ出る作品が多くなっている印象です。

西森:ざっくり教養と言ってしまっていいのかどうかはわからないけれど、今まで、視聴者や観客のことを変に気遣って、「わかりにくいから」と言って平易にしたりするようなことをするのではなく、それこそ、成馬さんも言っているように、レイヤーを複雑にしたりしているということも、繋がっている気がします。多層的にするには、やっぱりすごく考え抜いていないと無理になってきますし。

成馬:野木亜紀子さんの脚本にもどこか通じますね。感性からスタートしているのではなく、書くべき内容を頭でしっかり理解して作っているというか。

西森:多層的な作品は、観た人の意見が広がるんですよね。

成馬:現在放送中の朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)もそうですね。藤本有紀さんの脚本は劇中に登場するラジオやテレビの使い方がとにかくうまい。さらっと観ることもできるのですが、劇中に出てくる実際の作品にさまざまな意味が込められているのが、じっくり観ると分かるんですよね。朝ドラって時代状況などを解説するために、どうしてもナレーションが説明過多になりやすいんですが、『カムカムエヴリバディ』では、それを劇中に登場するラジオやTVにその役割を担わせている。情報量が多いんだけど、全部ノイズにならない。やっぱりドラマの脚本が多層化しているのだと思います。表層だけ追うとすごく単純に見えるんだけど、背後まで追っていくとこまかく作り込まれている。

西森:多層的であるか否かの話は、ハン・トンヒョンさんとの対談本『韓国映画・ドラマ――わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020』の中でも言及していて。私は多層的な作品としてやっぱり野木さんの作品を挙げていたんですけど、今、日本映画を観ても、多層的な作品が増えていると思います。特に『ドライブ・マイ・カー』が象徴している感じはありますね。

成馬:『まめ夫』のプロデューサー佐野さんも、国内ドラマだけではなく、他のジャンルの映像作品を意識した上で作品を作っていますよね。『まめ夫』の映像について伺った時に「Netflixで放送されている韓国のドラマと並んだ時に見劣りしないルックにしたい」と語っていたのが印象的でした。配信が当たり前になったことで、作り手の意識もだいぶ変わってきているのだと思います。

■公開情報
『ドライブ・マイ・カー』
公開中
出演:西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、パク・ユリム、ジン・デヨン、ソニア・ユアン、ペリー・ディゾン、アン・フィテ、安部聡子、岡田将生
原作:村上春樹『ドライブ・マイ・カー』(短編小説集『女のいない男たち』所収/文春文庫刊)
監督:濱口竜介
脚本:濱口竜介、大江崇允
音楽:石橋英子
製作:『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
製作幹事:カルチュア・エンタテインメント、ビターズ・エンド
制作プロダクション:C&I エンタテインメント
配給:ビターズ・エンド
2021/日本/1.85:1/179分/PG-12
(c)2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
公式サイト:dmc.bitters.co.jp

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