韓国社会だけの問題ではない 『今、私たちの学校は…』があぶり出した人間の恐ろしさ

 依然として高い人気を誇るNetflixオリジナルドラマ『今、私たちの学校は…』。韓国お得意のゾンビホラーに青春学園ドラマをかけあわせ、激しいアクションとともに少年少女たちの友情や恋を描き出した。

 ここでは全12話から印象に残ったセリフをピックアップして解説してみたい。あらためて見返すことで、物語に込められたテーマがわかるようになるだろう。それぞれの言葉には適宜、句読点を付け足している。ネタバレしているので、未見の方は注意。

“我々は決して偏見から逃れられない。誰もが他者への先入観を持っている”
ーーナムラ(チョ・イヒョン)

 成績優秀な学級委員長だが、周囲に対して心を閉じているナムラ。これは英語の授業で指名されたナムラが黒板の例文を訳したもの。ナムラ自身、周囲に対して先入観を持っていたし、周囲もナムラに先入観を持って接していた。その後、ゾンビとの戦いを通してナムラと周囲の人間を隔てていた先入観は霧消していったが、窮地に陥ってもなお他者への偏見や先入観を捨てきれない者もいた。いや、窮地だからこそ捨てられないのかもしれない。

何かあればすぐ連絡を。飛んでいくから。
ーーソジュ(チョン・ベス)

 ヒロイン、オンジョ(パク・ジフ)の父親。消防署のレスキュー隊員をしながら、男手ひとつでオンジョを育ててきた。彼の口癖は、「成績よりも元気でいることが大事だ」と「何かあればすぐ連絡を。飛んでいくから」の二つ。このドラマの大きなテーマの一つ、「大人は若者に何をしてやれるのか(大人は若者を見捨てるのか)」を象徴する言葉だ。

まるで「新感染」だ。
ーーチョンサン(ユン・チャンヨン)

 オンジョの幼なじみ、チョンサンは学校内の異変を察知して、友人たちにこう告げる。「新感染」とはもちろん、ヨン・サンホ監督の映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』のこと。Kゾンビブームを牽引した同作へのオマージュでありつつ、同作のおかげで韓国の若者のゾンビリテラシーが高いことを示している。

お前を大切に思っている人たちがいる。父親もいるし……だから生きるんだ。
ーーチョンサン

 親友のイサク(キム・ジュア)を亡くしたショックで動けなくなり、「大切な人が誰もいない」と口走ったオンジョにかけた言葉。チョンサンは誰よりもオンジョを大切に思っているのに、素直にそう言えないところが辛い。自分が思っている以上に、まわりには自分のことを大切に思っている人がいるものだ。

“小さな暴力を見逃せば、いずれ暴力に支配される”。そう警告した。“しょうがない”“子供だからいじめもあり得る”。そういう考えの人間が、こんな世界を作ったんだ。
ーービョンチャン(キム・ビョンチョル)

 警察の取り調べを受けた科学教師ビョンチャンの言葉。ビョンチャンは息子がいじめ(という名の悪質な暴力)で瀕死の重傷を負わされたが、まったく反省しない加害者、いじめを隠蔽しようとする学校、加害者の責任を追及しない警察、加害者におびえる被害者……という“体系化”された社会に絶望していた。

 凶暴なゾンビが人を襲う世界を作ったのはビョンチャンであり、諸悪の根源なのは間違いないのだが、彼にとってはゾンビが現れる前の世界もそう変わらないものなのかもしれない。今だからこそ、より響く言葉だ。

笑わせるな。お前は一生、勝者の尻拭いをし続ける、汚い負け犬だ。
ーーチョンサン

 ゾンビが大量発生した学校の中で、不良グループのグィナム(ユ・インス)が校長を殺害する現場を目撃したチョンサンは、脅しをかけられても堂々と反論する。普段、教室では目立たないチョンサンだが、このような胆力は見習いたい。

子供の死は希望を失うことで、大人の死は知恵を失うことだ。希望と知恵のどっちを重視するかって話さ。
ーージュニョン(アン・スンギュン)

 救助のヘリが来ないことに疑問を持ったナムラの「子供より大人の死を嘆く国もあれば、その反対の国もある。この国はどうだろう」という問いかけに対するジュニョンの返事。

 これは、修学旅行中の高校生など約300名が犠牲になった、2014年のセウォル号沈没事故が下敷きになっている。子供たちを見捨てて真っ先に逃げ出した船長と船員たちのほか、過積載を行っていた企業、企業と癒着していた政治家、他人を押しのけても前に出るべきだと教えてきた社会など、さまざまな部分で問題が指摘されてきた。大人の知恵によって体系化された勝者たちが、子供をはじめとする弱者を踏みつけている。これは韓国社会だけの問題ではない。

戻ってどうするんですか? 全人類を救う気で? 天使?
ーーホチョル(パク・ジェチョル)

 刑事のジェイク(イ・ギュヒョン)は、逃げ込んだ店で見つけた赤ん坊のほか、ゾンビに追われている少女も助けようとする。それを見た臆病な警官のホチョルは思わず「天使?」と言ってしまうのだが、まさしくジェイクが天使に見えた場面だった。ジェイクは子供を守ろうとする数少ない大人だ。

終わったら行こう どこであれ行ってみよう 机に突っ伏して12時間
聞き飽きた声が終わったら 手を取り合って行こう
走るのはやめよう ゆっくりと歩いてみよう
ーーデス(イム・ジェヒョク)

 クラスのムードメーカーであり、勇気をふるって巨体で仲間を守る男・デスが、学校の屋上で友達とたき火をかこみながら歌った曲。ゾンビのいない平凡な日常の尊さが歌われている。作詞作曲はデスを演じたイム・ジェヒョク自身。

ナヨン、みんな怖かっただけよ。あとでみんなのもとへ戻りなさい。戻って、友達のみんなやギョンスに言うの。“ごめん”と。ナヨン、生きるのよ。生きて、今度はみんなを助けて。
ーーソンファ(イ・サンヒ)

 責任感の強い担任教師、ソンファも子供たちの身を守ろうとした数少ない大人だ。周囲と対立して孤立したナヨン(イ・ユミ)に向かって、ゾンビに噛まれながら最後のメッセージを伝える。ソンファの言葉を思い出したナヨンは、クラスメイトたちを助けようとするが……。

関連記事