『ナイル殺人事件』北米興収1位も苦戦状態 “オールスターキャスト映画”への関心減?
2月13日(米国時間)、アメリカ最大の“スポーツの祭典”であるスーパーボウルが開催された。アメリカンフットボールの最高峰と称されるこの対決には、毎年アメリカの人々が熱狂的な視線を送る。大手企業がテレビ中継のために凝った広告を仕掛けるのも恒例行事で、映画業界にとっても今年の話題作を広くアピールする絶好の機会だ。
逆にいえば、それほどのイベントであるから、大手スタジオはわざわざスーパーボウルに合わせて注目作を公開することはないようだ。今年はスーパーボウルとはファン層があまり被らなさそうな新作映画が公開され、どちらもランキングの上位に座した。
2月11日~13日の北米興行収入ランキングのNo.1を射止めたのは、ケネス・ブラナー監督・主演のミステリー映画『ナイル殺人事件』。アガサ・クリスティーの同名小説を映画化したもので、ブラナーが名探偵エルキュール・ポアロを演じるシリーズとしては『オリエント急行殺人事件』(2017年)の続編にあたる。
『ナイル殺人事件』は3日間で1280万ドルという成績を記録し、これはコロナ禍の影響がつづく映画業界においてはまずまずの成績。大人向け映画が苦戦するという現在の傾向から外れるものではなかった。製作費9000万ドルという背景を鑑みれば、コスト回収の面で厳しい状況であることも確かだろう。前作『オリエント急行殺人事件』が公開後3日間で2868万ドルという大ヒットを見せていたことを振り返れば、コロナ禍の数年間で、あるいはストリーミングサービスの台頭で業界が一変したことで、映画興行をめぐる状況がいかに激変したかが理解できるというものだ。
ただし『オリエント急行殺人事件』と『ナイル殺人事件』を比較するならば、どちらもオールスターキャストを売りにした映画とはいえ、そのキャスティングの性質に大きな違いがあることも指摘せずにはいられない。前作はペネロペ・クルス、ウィレム・デフォー、ジュディ・デンチ、ジョニー・デップ、ミシェル・ファイファー、そして『スター・ウォーズ』続3部作の主演を張ったデイジー・リドリーという映画スターが結集した作品だったが、『ナイル殺人事件』はガル・ガドット、アーミー・ハマー、アネット・ベニング、『ブラックパンサー』(2018年)のレティーシャ・ライトと、前作に比べるとややネームバリューは強くない顔合わせだ。それに加え撮影後に公になったハマーのスキャンダル、なぜかSNSで一切本作を告知しないガドットと、キャスティングの影響はプロモーションにも大きく表れている。
ディズニー/20世紀スタジオは『ナイル殺人事件』をテレビ中心にPRしており、CM放送に多額の予算を投入。作品に対する批評家・観客の反応も『オリエント急行殺人事件』を超える好評ぶり(同じくブラナーの監督作で、アカデミー賞候補の『ベルファスト』よりも完成度が高いと称える声さえある)だけに、“まずまずの成績”という印象だけで本作を語り終えるのはもったいないというものだ。実力確かな俳優陣の競演、ブラナーの演出による上品な語り口の謎解きを大スクリーンで堪能したい。日本公開は2月25日だ。